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【国際】

<奪われる海岸 カンボジアの中国化>(下)大国の思惑 翻弄 国際空港 軍事転用の恐れ

中国企業が手掛ける国際空港の建設現場のゲート

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 未舗装の砂利と赤土の道を車で十五分ほど走ると、海岸近くに中国語の入ったゲートが現れた。

 カンボジア南部コッコン州ダラサコルで、中国企業が手掛ける国際空港の建設現場の入り口だ。

 香港メディアによると、中国企業がカンボジア政府から九十九年間の契約で、同国の海岸線の20%を占める四万五千ヘクタールの土地を借り、リゾート開発を計画。国際空港はその一角にあり、来年中の開港を目指す。

 目を引くのが三・四キロに及ぶ滑走路だ。米連邦航空局(FAA)がボーイング社の主力旅客機の離着陸に推奨している二・八キロを大きく上回る。

 州都コッコンから車で約二時間半、南部の中心都市シアヌークビルからは約四時間。近隣に都市はない。リゾート内では一キロ近い長さの埠頭(ふとう)を持つ深水港の建設も進む。

 商業的価値の割に規模が巨大なことから、ペンス米副大統領は昨年十一月、カンボジアのフン・セン首相に、施設が軍事利用される可能性があると懸念を表す書簡を送った。

 フン・セン氏は「憲法は外国の基地開設を禁じている」と否定するが、今年三月に中国と過去最大規模の合同軍事演習を実施するなど、親中ぶりに疑念は消えない。米有力紙は二十一日、シアヌークビル郊外の海軍基地の一部利用を中国に許可した疑惑を報道。二十九日にはフン・セン氏が、中国から今年に入り、軍事援助に加えて四千万ドル(約四十三億円)分の兵器を購入したと明かした。

 カンボジアの海岸線はタイ湾を通じて、中国とベトナムなどが領有権を争う南シナ海につながる。中国には軍事的価値が大きい。

 安全保障面でインド太平洋地域への関与強化を掲げる米国は、中国の影響増大を食い止めようと必死だ。六月に発表した国防総省の報告書でも「中国がカンボジア沿岸部の軍事拠点化を進めている」と批判した。

 カンボジアと米中の思惑が交錯する中、住民は置き去りにされている。

移住の補償が約束通りではなかったと明かすホン・ドゥイさん=いずれも7月11日

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 ダラサコルの空港予定地から約十キロ離れた小さな集落で、ホン・ドゥイさん(37)は雑貨店を営む。ドゥイさんは予定地に住む漁師だった。十年ほど前、村長らから「中国人が開発するので移住を」と求められた。補償費用は所有地一ヘクタール当たり八千ドル(約八十六万円)と言われた。ドゥイさんは「五ヘクタールで四万ドルのはずが、四千ドルしかもらっていない」と不満をあらわにする。

 地元人権NGO「アドホック」によると、所有地を提供した二百世帯以上が、補償がないと政府や中国大使館に訴えているという。

 カンボジアでは一九七〇年にクーデターで誕生した親米ロン・ノル政権が、七五年に中国が支援するポル・ポト政権に取って代わられた。七九年にポル・ポト政権が崩壊すると九〇年代まで内戦が続く。

 タイ・ナレースワン大のポール・チェンバース特別顧問(国際関係)は「カンボジアは地政学的利益を競う米中のおもちゃになりかねない」と指摘する。

 東南アジアの共産化を巡る争いから米中対立の前線へ。再び大国に利用される恐れが膨らむ。(コッコン州で、北川成史、写真も)

<南シナ海問題> 南シナ海に浮かぶ南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島と周辺海域の領有権を巡る紛争。太平洋からインド洋に抜ける重要な貿易路であり、豊富な天然資源を有するとされる海域で、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張している。中国はほぼ全域での権利を主張し、人工島の建設など実効支配を進めているが、2016年、フィリピンが中国を相手に提訴した裁判で、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は中国側の主張を退ける判断を下した。

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