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【国際】

中絶存廃、深まる党派対立 ミズーリ、医療機関も瀬戸際

中絶手術を担うミズーリ州唯一の診療所に入る車に歩み寄るカルフーンさん(右)ら中絶反対派の人たち

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 2020年米大統領選を前に、人工妊娠中絶を巡る党派対立が鮮明になっている。保守色が強く与党・共和党が優勢な南部や中西部の州では、中絶の権利を認めた連邦最高裁の判例にあらがい、中絶をほぼ全面禁止する法案が相次いで成立。ミズーリ州では中絶手術を担う医療機関が全米で唯一なくなる可能性も浮上している。 (セントルイスで、赤川肇、写真も)

▽5月に新法可決

 汗ばむ陽気のミズーリ州セントルイス。スーザン・カルフーンさん(75)が歩道に置いた脚立に上り、鉄格子の柵越しに叫んだ。「セカンドオピニオン(第二の意見)を聞いて!」。柵の向こうで車を降りた女性は振り向くことなく建物の中へ。州内で唯一、中絶手術を受けられる診療所だ。

人工妊娠中絶を禁止して「選択」を奪う流れに懸念を示すロビン・ウッツさん

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 カルフーンさんは中絶を殺人と見なす熱心なキリスト教徒。時間があれば仲間と診療所前に立ち、出入りする女性らへの説得を試みる。「中絶以外の方法がある。子どもを引き受けて育てたい人もたくさんいる」

 共和党が多数派の州議会は五月、妊娠八週後の中絶を禁止する法案を賛成一一〇、反対四四で可決。レイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も例外ではない。新法は施行前だが、州当局は、診療所が必要な調査に応じないなどの理由で中絶の許認可更新を拒否。裁判所の命令で暫定的に許認可は延長されたが、中絶医療そのものが瀬戸際に立たされている。

 「正しい前進だ」。一一年に会社を辞め、地元で中絶反対団体をつくったブライアン・ウエストブルックさん(35)は、州主導の中絶根絶を評価する。レイプを犯罪、暴力と認めつつ「中絶という別の暴力を正当化する理由にはならない」。

▽保守派の有力地帯

 中絶反対派が勢いづいているのはミズーリ州だけではない。米公共ラジオ局NPRによると、今年だけで九つの州で中絶制限を強める法案が可決。キリスト教保守派が有力な「バイブルベルト(聖書地帯)」と呼ばれる南部が目立つ。

 中絶反対派は、トランプ政権下で最高裁判事九人の構成が中絶制限に積極的な保守派が優位となる中、中絶禁止を違憲とした一九七三年の判例の変更も狙う。

 アラバマ州のアイビー知事は五月、母体に危険がある場合以外の中絶を重罪とし、手術した医師に最高で終身刑を科す法案に署名。「全ての生命は神からの授かりもの」という宗教的価値観とともに、最高裁判例を見直す「絶好の機会」になるとの見方を紹介した。

 ただ、こうした動きが必ずしも民意を反映しているわけではない。NPRが五月下旬〜六月上旬に実施した世論調査によると、民主党支持者の74%が「中絶容認」、共和党支持者の64%が「中絶反対」と支持政党によって割れる一方、判例変更まで求めるのは全体の13%にとどまっている。

▽「あまりに残酷」

 中絶の道が閉ざされるのを「恐ろしい」と語るのは、セントルイス近郊の会社員ロビン・ウッツさん(39)。存亡の危機に揺れる診療所で一六年秋、中絶同意書に記入した。

 体外受精で授かった待望の赤ちゃん。妊娠二十一週目の画像診断で腎臓に先天異常が見つかり、医師は言った。「仮に生き延びれば初の事例だ」。致死率100%。「もだえ苦しんで死なせるために生むのが、わが子への思いやりとは思わなかった」と振り返る。新法が施行されれば、こうした状況でも、出産を強いられかねない。ウッツさんは「あまりに残酷」と自らの経験を重ねた。

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