東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 国際 > 紙面から > 12月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【国際】

米ソ冷戦終結30年 世界の現状と展望は

1989年12月3日、マルタで共同記者会見したブッシュ米大統領(左)とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長=AP・共同

写真

 米国のブッシュ(父)大統領と旧ソ連のゴルバチョフ共産党書記長が地中海のマルタ島で会談し、米ソ冷戦の終結を宣言して3日で30年。当時は、民主主義と自由経済が勝利する「歴史の終わり」(米政治学者のフランシス・フクヤマ氏)とも指摘されたが、民主主義はむしろ後退し、世界は混沌(こんとん)としている。米国と中国が衝突する可能性を指摘するハーバード大のグレアム・アリソン教授と、戦略論研究で有名なエドワード・ルトワック氏に冷戦後の現状と将来の展望を聞いた。 (アメリカ総局・岩田仲弘)

■グレアム・アリソン氏 日本主導で危機回避を

マサチューセッツ州で(岩田仲弘撮影)

写真

 −「歴史の終わり」の考え方をどう考えるか。

 「考えが甘く、誤っていた。今のロシア、中国の状況を見れば、自由、平和、民主主義には程遠く、大きくミスリードした」

 −米ロ関係をどう見るか。

 「冷戦の真っただ中よりも悪化している。冷戦期に設けた情報連絡や軍備管理の窓口が基本的に閉ざされている。自己主張の強い核超大国との武力衝突の危機は依然高い」

 −「トゥキディデスのわな」(注1)に米中が陥り、全面戦争に発展する可能性は高まっているのか。

 「もしトゥキディデスが今の米中関係、特に中国の国益を追求する姿を見ていたら、新興国(中国)と覇権国(米国)は、衝突する方向に明らかに加速している、と言うだろう」

 −どのような局面を最も危険と考えるか。

 「新興国と覇権国の主要な衝突は、第三者の行動や挑発がきっかけとなる。米中の場合は台湾だ。台湾が香港のデモを見て、来年の総統選挙で独立の方向に動けば、中国は軍事行動に出る。米国は台湾を支援するだろう。米中の行動が悪循環に陥り、軍事衝突に陥る危険がある」

 −米中間の貿易戦争をどう見ているか。

 「全体の関係から見れば、小さなもめ事にすぎない。関税より重要なのはテクノロジー分野の紛争だ」

 −米中が対立する中で、日本には何ができるか。

 「環太平洋連携協定(TPP)が参考になる。米国が離脱しても、日本は断念せず、各国を主導して十一カ国でまとまった。日本単独では国内総生産(GDP)で中国に大きく劣るが、十一カ国全体では匹敵する。日本がルールを受け入れる側からつくる側になれば、米中の危機回避にも存在感を発揮できるだろう」

<グレアム・アリソン氏> 1940年生まれ。ハーバード大ケネディ行政大学院学長、国防次官補(クリントン政権)などを歴任。著書はキューバ・ミサイル危機の政策決定過程を分析した「決定の本質」(日経BP)、「米中戦争前夜」(ダイヤモンド社)など。

■エドワード・ルトワック氏 独裁の果ては体制崩壊

メリーランド州で(岩田仲弘撮影)

写真

 −冷戦崩壊後のロシアをどう位置付けているのか。

 「ソ連という『よろい』がはがれただけで、十六世紀以来のロシアに戻っただけだ。世界最強ではないが地理的に世界最大であり、ユーラシア(旧ソ連)圏の民族を支配する大国であり続けることを最も重視していることを理解すべきだ」

 −ロシアに対して北大西洋条約機構(NATO)は機能してきたのか。

 「NATOは東方拡大(注2)したことが大失敗だった。(二〇〇四年に)ロシア系民族を抱えるエストニアやラトビアなどを加入させ、ユーラシア圏に踏み込んだからだ。もしロシアがエストニアに侵攻しても、NATOは守れない」

 −米中間で新たな「冷戦」が始まったという見方についてどう考えるか。

 「正しい見方だ。冷戦は軍事力を使った領域から貿易や知的財産権を巡る『地経学』の領域、特に企業を巻き込んだ先端技術を巡る争いに発展している」

 −注目点は。

 「米連邦捜査局(FBI)が、先端技術を盗まれないよう、中国系企業による米ハイテク企業買収の取り締まり強化に乗り出したことだ。さらに米ハイテク企業が米政府と協力して得た先端技術の中国企業への移転を中国当局に強要させないよう取り組んでいる」

 −「冷戦」の行方は。

 「中国には勝つチャンスはない。彼らは世界一の戦略国家と思っているが、戦略に対する理解がない。シルクロード経済圏構想『一帯一路』は(発展途上国を借金漬けにしているため)かえって敵を増やしている」

 −習近平(しゅうきんぺい)国家主席の独裁化が進んでいるが。

 「権力の一極集中化が進むほど、逆に体制崩壊に近づく。米国は共産党政権の崩壊に向けた長期にわたる封じ込めに入った」

<エドワード・ルトワック氏> 1942年、ルーマニア生まれ。戦略家、歴史家、国防アドバイザー、米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問。著書に「中国4.0」(文春新書)、近く「ルトワックの日本改造論」(飛鳥新社、奥山真司訳)を刊行。

◆新興国との覇権争い 戦争に

<(注1)トゥキディデスのわな> 古代ギリシャの歴史家にちなんで名付けられたアリソン氏の造語。新興国が従来の覇権国家に取って代わろうとすると、最悪の場合に戦争に至る構図を指す。アリソン氏によると、過去500年間の覇権争い16事例のうち、日清・日露戦争や太平洋戦争など12事例は戦争に発展。戦争が回避されたのは、20世紀初頭の米英関係や、米ソ冷戦など4事例にとどまる。

◆旧ソ連の影響下の国 続々参加

<(注2)NATOの東方拡大> 東西冷戦の激化に伴い、旧ソ連の脅威に対抗する共同防衛組織として1949年に米国、カナダ、西欧の計12カ国で発足。冷戦終結と旧ソ連崩壊後、ソ連の影響下にあった国々などの加盟申請が相次ぎ、99年にチェコ、ハンガリー、ポーランドが加盟。2004年にエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国など7カ国が加盟。その後も拡大し、現在は計29カ国。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報