東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 国際 > 紙面から > 2月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【国際】

ごみの町、生業は収集 カイロ・キリスト教地区 再処理85%、養豚にも利用

ごみ袋を山積みにしたトラックが行き交うマンシェット・ナセル

写真

 エジプト・カイロのごみ処理の方法は独特だ。人口二千万人を抱える世界有数の大都市ながら、ごみ収集の行政サービスはないに等しく、家庭では分別すらしない。ごちゃ混ぜになったごみを集め、リサイクルを担うのはキリスト教の一派コプト教徒が多く暮らす通称「ごみの町」だ。 (カイロ・奥田哲平、写真も)

◎宗教と偏見

 強烈な異臭が鼻を突く狭い路地を、ごみ袋が崩れ落ちそうなほど積まれたトラックが行き交う。カイロ中心部から車で三十分ほどの町マンシェット・ナセル。四〜五階建ての住宅が立ち並び、町は圧縮や破砕するプラスチックや段ボール、空き缶などで埋まっている。カイロで日々排出される一万七千トンの廃棄物のうち、四千トンがここに運ばれる。人口六万人の大半がごみ処理に従事し、再処理率は85%に上るという。

 マンシェット・ナセルの由来をひもとくと、エジプトの抱える複雑な背景が垣間見える。一九二〇年代にエジプト南部のコプト教徒たちが職を求めて都市部に移住。生ごみを再利用して養豚を始め、次第に全般的なごみ収集が生業(なりわい)となった。同じような「ごみの町」はカイロに六カ所ある。

 ブタはイスラム教では「不浄」とされる生き物。人口の一割という宗教的少数派の立場に加え、ブタを扱っているがゆえに、蔑(さげす)みを込めて「ザッバリーン(ごみを集める人びと)」と呼ばれる。

 町は、決して衛生的とは言えない生活環境で、道路は未舗装のまま。多くのイスラム教徒は町に入りたがらない。

◎教育が必要

 偏見と時代の荒波にさらされながら、町はたくましく生き残ってきた。政府は二〇〇三年に欧州企業を招いてごみ処理を委託。〇九年には新型インフルエンザ予防策として、飼育するブタが殺処分された。

 しかし、「ザッバリーン」はカイロ市内のアパートを一軒ずつ回って収集する周到さで、結局、欧州企業は事業を断念した。

 一家総出でごみ収集を営むため、かつては学校に行けない子どもが多かった。だが、〇一年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)などが学習支援する「リサイクリングスクール」を設立して受け入れた。親も教育の重要性に気付き、今では高校や大学に進学する子どもが増えている。

 流ちょうな英語を話すアドハム・シャルカウィさん(32)もその一人。小学校に通ったのは二年間だけ。スクールに出会い、奨学制度での米国留学を経て町に戻った。スクールの運営に協力する傍ら、環境コンサルタントとして起業した。

 シャルカウィさんによると、近年は軍や警察の元高官がつくった民間警備会社が処理業に参入するなど競争が激化。「歴史的にわれわれが担っていた地区のシェアが奪われている。旧式の設備を更新するなど、産業としての発展が必要だ」と町の将来を見据える。

1月27日、マンシェット・ナセルの高台にある丘をくりぬいた洞窟教会で文化交流イベントが開かれた

写真

◎外の世界を

 スクールは今も放課後活動の場所として開かれ、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員有志がボランティアで協力。一月下旬には文化交流イベントを開き、地元の子どもたちが浴衣や折り紙などの日本文化を楽しんだ。

 会場はマンシェット・ナセルの高台にある石灰岩の丘をくりぬいた「洞窟教会」。信仰の場に初めてピアノが運び込まれ、昭和音楽大講師でもある日本人ピアニスト末永匡さんが演奏し、スクールに通う子どもたちも合唱を披露した。企画した幸田圭司さん(42)は「子どもは町以外の世界を知るチャンスが少ない。達成感を味わうことで自尊心の向上につながればいい」と語った。

 合唱隊に参加した高校生マリーナ・ガーベルさん(18)は親がプラスチック再処理を営む。「リサイクル文化のないエジプトで、私たちは環境を守る方法を知っている。大学を出て技術者になり、町のイメージを変えたい」と訴えた。「ごみの町」ではなく、環境先進地−。偏見を吹き飛ばす若い芽が育ちつつある。

文化交流イベントで合唱を披露するリサイクリングスクールの子どもと日本人の若者ら

写真
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報