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【震災2年特集】

放射能汚染を追う<下> 自然界の除染難題 基準値超食品減る

 放射性セシウムの検査で、国の基準値を超える食品は減っているが、野生鳥獣肉や野生キノコ、水産物の一部で高い数値が出ている。基本的にこういった食品が流通することはないが、専門家は除染が進まない山林の汚染や、海の食物連鎖の影響があるとみており、今後も注意が必要と指摘している。

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 厚生労働省の集計によると、昨年四月から今年二月までに全国の自治体が行った食品の検査は約二十五万件あった。基準値を超えたのは約0・9%にあたる二千百九十八件(百五十三品目)。月別にみると昨年四、五月は2%を超えたが、六月に約1%に低下。その後は、1%を下回っている。

 件数でみても、多くの食品が収穫期を迎えて検査総数が増加した昨秋は増えたが、厚労省の担当者は「全体的に低下傾向にある」と話している。

 基準値超えが見つかったのは、東日本を中心とする十七都県だ。自治体の生産量や検査体制によって検査数が違い、単純に比較はできないものの、最多は福島の千二百三十五件。次いで岩手(二百六十件)、栃木(二百四十件)、宮城(百六十三件)、群馬(百十件)、茨城(百六件)の順。

 野生の動植物は放射性セシウムの濃度が下がりにくい。さらに昨年四月から基準値が厳しくなったこともあり、これらの出荷制限地域が広がっている。

 基準値超えの食品を品目別でみると、昨春はコシアブラ、クサソテツ(コゴミ)など野生の山菜が多く、福島や茨城、栃木など五県の五十九市町村で出荷が制限された。

 夏から秋は、チチタケやアカモミタケなど野生のキノコが増え、埼玉、長野、静岡など十県の九十三市町村で出荷が制限された。秋から冬はイノシシやクマ、シカ、ヤマドリといった野生鳥獣の肉が多かった。昨年六月、野生鳥獣肉が出荷制限となったのは福島など四県だったが、その後は岩手や新潟など九県に広がった。

 ただ、栃木や茨城、千葉のイノシシは全頭検査を実施し、基準値以下だったものは出荷が認められている。

 基準値を超えた食品の中で最も多いのが水産物で、五割近くを占める。ほとんどは福島周辺の底物魚だが、青森のマダラや千葉のスズキは原発から離れた海域でも基準値を超えた。天然のイワナやヤマメなどの淡水魚も出荷が制限された。

 一方、キノコや山菜以外の野菜類と畜産物、飲料水は大半が基準値を下回った。牛乳・乳児用食品の基準値超えはなかった。

◆イノシシ鍋復活を願う 四万温泉旅館

 群馬県中之条町の四万温泉では昨年末から、野生のイノシシを使った冬の名物料理「あがしし鍋」の提供ができないでいる。

 鍋の肉は「あがつま農協」(本店・東吾妻町)が二〇〇七年度から農作物を荒らし駆除されたイノシシを加工、販売。四万温泉協会でも一〇年から約二十軒の旅館がこの肉でちゃんこやボタンなど鍋料理を出した。

 一一年十月、県の調査で中之条町内で捕獲されたイノシシから一キログラム当たり一六八ベクレルの放射性セシウムを検出。当時の暫定規制値を下回ったが、農協は十二月に加工をやめた。

 協会は昨年一〜三月、事故前に捕獲したイノシシの冷凍保存肉で鍋料理を続けたが品切れに。昨冬からは二十五軒の旅館が工夫を凝らし、豚肉や鶏肉など安全な食材を使った鍋料理を出した。柏原益夫会長(51)は「名物料理だったので残念。将来的に復活を願っている」と話した。

   ◇

 茨城県では原発事故の影響に加え、津波による漁港の被害が重なり、昨年の水揚げは二〇一〇年の四分の一の約一万トン。金額では約六割になっている。最近は鮮魚を中心に地元魚がスーパーで販売されているといい、県漁政課は「独自の基準を設け、市場に出る前に検査し結果を公表している」と話す。

 県では昨年三月、国の基準値より厳しい一キログラム当たり五〇ベクレルの出荷自粛基準を設けた。この基準を超え、出荷が自粛された魚種は最多だった二十五種から、現在はアイナメ、クロダイなど九種に減った。同課は「全体的に魚から検出される放射性物質の数値は一昨年、昨年より下がってきた」と話す。

昨年4月、茨城県北茨城市の大津漁港にあがった魚。網にかかったヒラメやホウボウは、出荷停止や自粛のため処分されていた

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◆識者こう見る

 美作(みまさか)大(岡山県)の山口英昌教授(食環境科学)の話 原発事故直後に放出された放射性物質は主に、海面に近い小魚やプランクトンに取り込まれた。その後、魚を食べる中型魚のスズキやマダラに移り、福島から離れた青森などでも基準値超えの魚が揚がった。放射性セシウムは泥に吸着されて移動する。泥がたまる岩礁部にすむアイナメや、海底にすむヒラメなどからは高い数値が測定されたものもある。一九六〇年代に排出が多かった水銀が、今も世界各地のマグロやクジラから検出されることを考えれば、汚染の中心も食物連鎖の頂点に位置する大型捕食魚に移っていくと推測される。サケやマグロなど回遊性の高い大型魚にも注意が必要になってくる。

<食品中の放射性セシウムの基準値> 東京電力福島第一原発事故後の2011年3月に設定された暫定規制値は野菜類、穀物、肉・卵・魚などは1キログラム当たり500ベクレル、牛乳・乳製品と飲料水は同200ベクレルを超えた場合、回収、廃棄するとした。昨年4月から適用された新基準値では、一般食品が同100ベクレル、水道水やペットボトルの水が同10ベクレル、牛乳と乳児用食品は放射能の影響を受けやすい子供に配慮して同50ベクレルと、それぞれ厳しくなった。

<出荷制限> 放射性セシウムの検査で国の基準値を超えた食品に地域的な広がりがみられる場合、内部被ばくを防ぐため、原子力災害対策特措法に基づいて出荷が制限される。5日現在、東北や関東などの14県の延べ約170品目が対象になっている。解除には、直近1カ月以内に同じ市町村の3カ所以上で、検査結果が基準値以下になる必要がある。著しく高濃度のセシウムが検出された場合は、所有者が自分で食べることも控えるよう求める摂取制限が指示される。

 

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