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【震災2年特集】

原発ゼロ 三つのかぎ

 暮らしが、働き場が、経済が…。そんな理由から、なかなか原発ゼロへと踏み出せないニッポン。果たして本当だろうか。私たちは変化を恐れ、現状より悪くなると思い込んだり、信じ込まされているのではないか。原発ゼロを実現する「三つのかぎ」を検証する。

<1>家庭の電気代、高くなる? 省エネ推進でカバー可能

 原発ゼロになると、電気料金が上がり、家計を直撃すると悩む人もいるだろう。だが、長い目で見れば、違った視点が開ける。

 独立行政法人・科学技術振興機構の低炭素社会戦略センターが昨年7月にまとめた試算がそれだ。

 原発依存度を0%、15%、20〜25%の三つのシナリオで、2030年の家庭(年収500万〜550万円)への影響を試算。電気代は値上がりするが、その分、消費量に気をつかうので、省エネを促進。原発ゼロでも年間13万円の余裕が生まれ、他の二つのシナリオと遜色ない効果が期待できる。

 既に経済界では省エネを見越したビジネスが急ピッチで進む。

 愛知県日進市の住宅展示場「ナゴヤハウジングセンター日進梅森会場」は、30棟の最新型住宅が省エネ性能を競い合う。

 住宅メーカー、一条工務店(東京)は南極基地で使う断熱材の採用などで電気代が半分〜3分の1以下になるとPR。森田剛弘店長(36)は「省エネと創エネが住宅業界のキーワード。客の関心は高い」と話す。同社が昨年販売した住宅のうち、太陽光パネルの搭載率は9割を超えた。

 そもそも原発は、電力会社が言うように本当に安い発電方法なのか。政府の検証委員会によると、原発の発電コストは太陽光や風力など再生可能エネルギーよりおおむね安い1キロワット時あたり約9円。

 ただ、この数値には事故を起こした場合の損害や除染費用などは最低限しか含まれておらず、検証委の委員を務めた立命館大国際関係学部の大島堅一教授は「原発のコストは青天井だ」と指摘する。

<2>製造業が海外逃避? 企業の電気代負担英仏より軽い

 「原発を再稼働しないと製造業が海外に逃げ国内産業が空洞化する」−。そう公言したのは財界総理の異名をとる、経団連の米倉弘昌会長だった。本当にそうなのだろうか。

 「日本の省エネの生産技術は高く、製造業の負担感は海外流出を促すほどではない」と話すのは大和総研のエコノミスト神田慶司さん(32)だ。

 大和総研の試算によると、確かに日本の産業用電力は韓国より4割ほど高い。ただ、製造業の利益に対する電気料金の支払額で見ると、日本は2008年、4.3%で、韓国(5.1%)、英国(5.9%)、フランス(4.8%)より負担率は低い。

 名古屋市瑞穂区のめっき加工会社「太陽電化工業」。照明を消した工場内では、従業員が手元の蛍光灯を頼りに精密さが要求される自動車部品の検査を行っている。

 同社の電気代は年1500万円で、売り上げの3%ほど。30年前のほぼ半分で、この間、売り上げを伸ばしながら省エネを進めてきた。換気扇に電力使用量を抑える制御装置をつけ、将来的には照明の発光ダイオード(LED)化や自家発電の導入も検討する。

 常務の伊藤卓さん(34)は「『値上げだ』と騒ぐ前に自助努力で乗り切れる部分がある」と明快だ。

 神田さんによると、多くの日本企業が進出するアジア諸国は、電力不足が恒常化している中国をはじめ電力供給が不安定。「電気料金を理由に海外移転するメリットはない。輸出型企業が引っ張る日本の場合、むしろ円高の方が大きい」

 円安傾向が進む安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」は、むしろ原発ゼロへの追い風かもしれない。

<3>原発作業員ら8万人失職? 再生エネで59万人新規雇用

 雇用はどうか。

 原発産業は電力会社を頂点にゼネコンや原子炉メーカー、その下請け企業がピラミッド状に連なる多重構造。経済産業省資源エネルギー庁によると、定期検査などで働く末端の現場作業員を含め8万人が従事する。大阪府の職員規模にほぼ匹敵するとされ、経済界は「脱原発で雇用不安が起きる」と主張する。

 ところが、大阪大社会経済研究所の小野善康教授(経済学)は再生可能エネルギー分野でビジネスチャンスが生まれると指摘。原発の雇用を吸収しても、なお大幅に余る59万人の新規雇用が生まれると試算する。

 小野教授の試算は大げさではない。実際に総発電量に占める再生エネの比率が20%に達したドイツは、2011年に再生エネで38万人の新規雇用を生んだ。「電気は安定した市場。政府がエネルギー転換の日程を明示しさえすれば企業はついてくる」と話す。

 福井県など原発立地自治体は、地元経済への悪影響を懸念するが「国が政策で再生エネの投資を立地地域に誘導すれば解消できる」と小野教授。

 さらに廃炉ビジネスも有望。中部電力が09年に着手した浜岡原発(静岡県御前崎市)1、2号機の廃炉作業は今後30年近くも続く。日本原子力産業協会が原発関連企業に実施したアンケートでは、今後期待できる分野として最も多い31%が廃炉事業を挙げた。

 原発特集は、小野沢健太、片山夏子、河内誠、河郷丈史、清水祐樹、志村彰太、鈴木龍司、立石智保、寺本政司、山川剛史が担当しました。

 

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