平和の俳句 2019夏

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 戦後74年、2019年夏、「平和の俳句」が昨年に続いて復活しました。戦後70年が80年、100年、永遠へと続くように願いを込め、2015年1月1日から3年間、読者の皆さんと続けた「軽やかな平和運動」。今年の選者も昨年に続いて、金子兜太(とうた)さん=昨年2月に98歳で死去=とともに「平和の俳句」を提唱し、スタートから選者を務めた作家のいとうせいこうさん、金子さんの後を継いで17年9月か ら選にあたった俳人の黒田杏子(ももこ)さん、テレビ番組でおなじみの俳人・夏井いつきさんの3人です。6082句の投稿から選ばれた計30句と関連する記事を8月15日の朝刊紙面に掲載しました。

いとうせいこうさんが選んだ10句

八月や空の裂けめに無数の目

 益子 聰(ましこ・さとし)(76) 埼玉県川越市

曖昧(あいまい)な言葉はげ落つ広島忌

 神戸 隆三(かんべ・りゅうぞう)(71) 愛知県一宮市

あぢさゐ(い)のどんどん重くなる平和

 梅田 昌孝(まさたか)(66) 愛知県北名古屋市

祈るとき奇麗なことば百合(ゆり)となる

 大 宏允(おおたか・ひろみつ)(77) 東京都北区

ローソクへ顔を集める灯(ひ)の管制

 中村 修(90) 三重県四日市市

遺(のこ)されし軍服で知る父の丈

 木 あや子(67) 岐阜県垂井(たるい)町

ひいじいちゃんセンソウってなにおしえてよ

 小川 沙月(さつき)(15) 名古屋市瑞穂区

話し合おうきっとわかるさ君のこと

 須加ア 颯太(すかさき・そうた)(15) 愛知県豊橋市

盆休み夫の無精ヒゲにキス

 伊藤 友加理(ゆかり)(47) 愛知県小牧市

ありふれたそうそうそれが平和です

 北村 明延(あきのぶ)(92) 神奈川県大和市

【いとうせいこうさん選評】平和求める祈り切実

 今年も「平和の俳句」です。新しく平和を語る言葉がたくさん集まりました。僕はもうすっかり投句が減っていると思っていたのですが、ところがどっこい。そして中身も読みがいあるものが多く、体験談も戦争を知らない世代からの表現も多彩でした。

 また、わずか一年で平和への祈念が切実で悲痛になり、去年までの楽観が消えているのに息をのみました。明らかに時代が変化しており、だからこそ市民たちによる「平和の俳句」が大切なのだと思います。

 <八月や空の裂けめに無数の目>と益子聰さんは詠みます。確かに私たちは死者からの、厳しくも親しい視線を、特に八月に強く感じる。むろんその目は一年中、朝も夜も私たちを見ているのです。

 今回もたくさん集まった俳句は、死者に促されて作られたのではないでしょうか。彼らも平和を望んでいるに違いありません。 

黒田杏子さんが選んだ10句

ほぅたるを待つ被爆死の友を待つ

 大岩 孝平(87) 東京都三鷹市

広島で平和学習深めたよ

 石川 奈津希(なつき)(15) 石川県小松市

戦火逃げさまよう異国敗戦忌

 三浦 靖男(81) 東京都東久留米市

比島(ひとう)戦死五十一万八千分の一は兄(あん)ちゃんだ

 斎藤 日出世(ひでよ)(76) 栃木県鹿沼市

安らかに眠れる世かと兜太問う

 山本 幹也(64) 岐阜県美濃加茂市

原爆忌季語に染みいる放射能

 藤好 良(ふじよし・りょう)(70) 千葉県柏市

戦(いくさ)なきジュゴンの海を守るべし

 今別府(いまべっぷ) 勝則(79) 東京都あきる野市

夏草や鳥獣戯画にゲルニカに

 三輪 憲(さとし)(80) 東京都大田区

半世紀原爆手帳隠す友

 杉田 三江子(みえこ)(84) 名古屋市守山区

にっこりと笑うだけで平和みたい

 山下 遥耀(はるき)(15) 名古屋市瑞穂区

【黒田杏子さん選評】勇気、希望授けられた

 六千八十二句の作品に対面させていただきました。八十歳の俳句作者の私の全身の細胞がひとつひとつゆっくりと新しく生まれ変わってゆくまたとない時間でした。年齢、性、居住地を超えて、どなたの句にも本当に詠みたいこと、本当に書きたいことがぎっしりとこめられていたからなのだと思いました。金子兜太先生への共感と感謝を詠まれた句もたくさんありました。天上で先生もよろこんでおられると思います。

 俳句は世界で一番短い、極小の詩。でもこのように中学生から九十歳を超えた方々まで、自由にのびのびと感じていること、思うこと、願うことを書きとめることができるのです。俳句の力、とりわけ「平和の俳句」の力のひろがりと深さ、無限の可能性を実感することができて、勇気と希望を授けられました。こののちも、ぜひ毎日詠み続けてください。私も句作と選句に力を尽くしてゆきます。

夏井いつきさんが選んだ10句

向日葵(ひまわり)立つわたしはわたしだけのもの

 平本 萌子(もえこ)(36) 相模原市中央区

一人でゆくサマーセールも九条も

 北川 由紀(61) 三重県鈴鹿市

日は昇る赤ちゃんは泣く花は咲く

 斉藤 博恵(ひろえ)(52) 千葉県市川市

画面の銃うつ子我が手で銃うつ子

 小林 和徳(かずのり)(15) 名古屋市瑞穂区

手折(たお)れども鉄砲百合は撃たざりき

 並木 孝信(たかのぶ)(84) 神奈川県厚木市

桃の汁したたり落ちて父出征

 根岸 加寿子(かずこ)(68) 神奈川県横須賀市

焼野原(やけのはら)蛇のごとくに墜(お)ちし電線

 斉藤 弘(88) 東京都立川市

引揚(ひきあ)げて冬の木立となりにけり

 大竹 晃子(51) 東京都武蔵野市

大量の武器買う見出し春炬燵(はるごたつ)

 手塚 立夫(たつお)(72) 千葉県八街(やちまた)市

八月の空に半旗を忘れてる

 樋口 英世(ひでよ)(77) 静岡県磐田市

【夏井いつきさん選評】日常詠み説得力

 「平和の俳句」の傾向として、日常の何げない光景の中に平和のありがたみを感じ取る句は多く見られてきましたが、今年は詩としての純度が高くなり、その切実さが強くなっていると感じました。斉藤博恵さんの<日は昇る赤ちゃんは泣く花は咲く>は、日々を生きる喜びを単純化した表現に説得力があります。<画面の銃うつ子我が手で銃うつ子>と詠んだのは十五歳の小林和徳君。ゲームの<画面の銃うつ子>は自身、<我が手で銃うつ子>は紛争の地に生きる子。その接点にハッと心が動いた瞬間、句がカタチを成したのでしょう。

 俳句を作ったり読んだりすることは、生々しい体験を共有することでもあります。ゲーム画面で銃を撃つ行為によって小林君の平和スイッチが入ったのだと思います。「平和の俳句」を詠み続けていると、ある時期ある瞬間、平和への生々しい危機感のスイッチが入る。そこに「平和の俳句」運動の意味と意義があると思うのです。

● 選者のメッセージ ●

いとうせいこうさん

いとうせいこうさん

 今年も他人に主張したいこと、自分の中で確かめたいことを俳句にする機会がやってまいりました。心に残る言葉は社会を変えます!

<いとう・せいこう> 1961年、東京都葛飾区生まれ。早稲田大卒業後、出版社の編集を経て音楽、舞台、テレビなどマルチに活躍。88年に小説『ノーライフ・キング』で作家デビュー。99年、『ボタニカル・ライフ』で講談社エッセイ賞。2013年、東日本大震災をモチーフにした『想像ラジオ』で野間文芸新人賞。近著に『小説禁止令に賛同する』。本紙で5月から、エッセー「日日是植物」(毎月1回)連載中。

黒田杏子さん

黒田杏子さん

 雑誌「兜太 TOTA」、映画「天地悠々」、「金子兜太戦後俳句日記」と広がる兜太の心。今年も自由闊達(かったつ)、目のさめるような俳句をお待ちしています。 

<くろだ・ももこ> 俳人、エッセイスト。1938年、東京都生まれ。俳誌『藍生(あおい)』主宰。東京女子大在学中、山口青邨(せいそん)に師事 。広告代理店「博報堂」で『広告』編集長を務めた。句集に『日光月光』(蛇笏賞)、『木の椅子』(現代俳句女流賞、俳人協会新人賞)、『銀河山河』など。金子兜太さんと50年近い交流があった。

夏井いつきさん

夏井いつきさん

 平和を願いましょう。平和の手触りを確かめてみましょう。それを俳句という詩型で精いっぱい詠んでまいりましょう。

<なつい・いつき> 俳人。俳句集団「いつき組」組長。1957年、愛媛県生まれ。中学校の国語教諭を8年間務めた後、俳人に転身。学校での俳句の授業や「俳句甲子園」の創設に携わるなど、俳句の裾野を広げる活動を続ける。テレビ番組「プレバト!!」(TBS系)の俳句コーナーや「NHK俳句」(Eテレ)の選者でもおなじみ。句集に『伊月集』など。近著に「夏井いつきの俳句ことはじめ」など。