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【彩の国 まつりごと】

【第十部】次への一歩<5> 放射性物質で請願

2011年10月30日

 「子どもの命を守りたい」。理由はただ、それだけだった。

 越谷市の加藤真紀さん(39)は五月下旬、親たちと「5年後10年後子どもたちが健やかに育つ会・越谷」をつくり、福島第一原発事故による被ばくを最小限に抑える対策を求めて動きだしていた。小学六年の長女ら三児の母親でもある。

 最初は、学校に空間放射線量を計測させてほしいと頼んだ。校長が「判断できない」と言うと、市長に善処を求めるメールを送り、市議会にも足を運んだ。六月定例会には、学校や保育所での放射線計測や土壌検査などを求めて請願を提出した。

 傍聴席は母親たちで埋まった。請願を審議する市議会の委員会。結論は、請願趣旨に大筋で賛同するという「趣旨採択」で、議会として市に対応を求める「採択」ではなかった。意外な展開に「これでは何も変わらない」と、母親たちは動き始めた。

 インターネットの簡易ブログ「ツイッター」などを活用し、その日の夜から情報を発信。三十〜四十代の子育て世代の市議を中心に説得を重ねて、本会議では賛成多数で採択された。異例の“逆転劇”だった。

 委員会での採択はなぜ見送られたのか。「趣旨採択」を提案した保守系市議は「土壌検査は国の責任。除染した土の保管方法も定まらない中で、市の税金を使うのは筋が違うと思った」と説明する。

 母親たちを支援した議員もいた。辻浩司市議(36)は「原発で何が起きているのか正確な情報を得られず、不安だった」。迷った揚げ句、長女(1つ)を兵庫県西宮市に一時避難させた。「過剰反応なのでは」と自問自答する中で、「加藤さんから相談を受け、同じように悩んでいる親をつなげるのが、議員としての自分の仕事と確信した」と話す。

 放射線量が高いホットスポットとして注目されている三郷市。同市議会は、六月定例会で放射性物質の汚染対策を求める請願を不採択とした。同趣旨の決議案を可決したが、請願が求めた土壌検査は盛り込まれなかった。

 請願を出した市民団体「放射能から子ども達(たち)を守ろう みさと」代表の名取知衣子さん(37)は小学生と一歳の子がいる。「国や県の指示がなければ自治体は動かないのか、と危機感の違いに落胆した。事故に今すぐ立ち向かおうと必死だった親に比べて、自治体の動きはのんびりして見えた」と振り返る。

 加藤さんたちは請願採択後、越谷市長と面会。市内の小学校や保育所、公園での土壌検査も実現した。母親たちの行動について、請願採択に賛成した白川秀嗣市議(58)は「『子どもを守るために私たちも動く。行政もできることから始めてほしい』という提案型だった。政府の指示待ちでは子どもたちの命は守れない。親たちはその当たり前のことを、最も身近な自治体に突き付けた」と指摘する。

 「自分の子だけが安全でいいのか」。若い母親たちは自発的に動き、議会と行政の背中を押した。加藤さんは「3・11後、地域に根差して行動する大切さを学んだ。子どもの命を守るため、自治体とは対立するのではなく、話し合うことを大事にしたい」と話す。

 放射性物質から市民をどう守るのか−。市民の知恵と行動力を生かし、3・11後を乗り切る自治体の危機管理が試されている。 (大沢令)

 <放射性物質の汚染対策を求める請願> 三郷市議会は9月定例会で(1)学校などでの空間放射線量の詳細測定(2)放射線量が高い場所での除染(3)給食食材の産地公開−などを求める請願を採択。吉川、春日部市議会などでも、同趣旨の請願が相次いで採択された。

 

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