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【彩の国 まつりごと】

【第十部】次への一歩<6> 被災地・双葉の選挙

2011年10月31日

双葉町選管に派遣され、有権者に郵送する書類を準備する加須市職員たち=旧騎西高校で

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 「これまで地縁や血縁でやってきた。震災でこれが切れて、今回は議員の本質が問われる」

 福島県双葉町が役場機能ごと避難している加須市の旧騎西高校で、十一月十日告示の同町議選に出る現職陣営の選対を務める男性(43)がつぶやいた。

 春の統一地方選で行う予定だった同県議選と同町議選。東日本大震災を受け特例で延期されていたが、同二十日に投開票される。町民は四十一都道府県に散らばり、前回の選挙を戦ったこの選対のメンバーも、福島県や首都圏で再就職したり、事業を再開したりとバラバラになった。

 選挙事務所を構え、選挙カーを走らせ、街頭演説で政策を訴える。有権者は自宅近くの投票所に行き、一票を投じる−。こんな“当たり前”の選挙ができない。町議選なのに選挙区は全国区。「まるで大統領選挙」と悲鳴も上がる。どうやって有権者に名前や政策を届けるのか。選管も候補予定者も有権者も、前代未聞の苦労を強いられる。

 選管の基礎資料、選挙人名簿が使えない。住所が「双葉町」のままになっているからだ。義援金などを受けるため世帯主は避難先住所を町に登録している。選管はこれを基に今月十四日、選挙期日と投票所の変更通知を郵送。家族がバラバラに避難している世帯も少なくないが、世帯主を通じて有権者の所在把握をほぼ終えた。

 全国に散らばる有権者は、今回初めて作る選挙公報を告示後に郵送で受け取って読み、不在者投票をする。選管は不在者投票請求用紙などを送る際、四回にわたって書面で投票を呼び掛ける方針だが、前回81・52%あった町議選投票率の行方は不透明だ。

 立候補予定者の戸惑いも大きい。避難所の建物以外なら演説会を開くことはできるが、町議選で三選を目指す伊沢史朗氏は「開いても人が集まるのか。選挙カーは意味がないし、携帯電話に入っている有権者に片っ端から電話をかけるしかない」と嘆いた。

 候補予定者の所在も埼玉と福島以外に東京、栃木、山形各都県などに分かれ、今は仮設住宅や避難所を回って有権者にあいさつをしている人が多いという。

 震災、原発事故、避難生活−。有権者の意識は確実に変化している。

 「これまでは知り合いに頼まれた候補者に投票していたけど、その人は避難所で私たちの声を一度も聞いてくれなかった」と、茨城県つくば市の借り上げ住宅に避難している主婦田代清子さん(66)。次の選挙は「町民のために動いてくれる人物かどうかで決めたい」と言った。

 福島市の仮設住宅に住む無職志賀トシ子さん(77)は「町を離れ、議員の存在が見えなくなった。今まで必ず投票していたが、今回はどうしようか」。支援者回りの候補予定者に「議員はいらない」「選挙なんかしてる場合じゃない」など、厳しい声も飛ぶ。五期目を目指す清川泰弘氏は「復興を目指すときだからこそ、主張や姿勢から議員を選んでほしい」と訴えた。

 想定外だらけの選挙を、加須市やさいたま市の応援職員が支える。同市職員の男性(45)は「非常時に選挙を行う難しさが身に染みた」という。同市選挙課の田辺幸夫課長は言った。

 「どんな状況でも選挙は民主主義の根幹。応援の職員も、得るものは多いはずだ」 (増田紗苗)

<今回の双葉町議選> 町議会は定数12を8に減らし、現職10、元職2、新人1の計13人が立候補予定。有権者数は5531人(9月2日現在)。町選管が出した選挙期日通知は約50通が宛先不明で戻ってきたが、個別に電話するなどし、所在不明の有権者は約20人にまで減った。投票所は加須市の旧騎西高校と福島県郡山市の同町役場支所で、11月20日の投票は午後6時締め切り。郡山の票はトラックで運び、開票は同11時から旧騎西高で始まる。

 

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