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【彩の国 まつりごと】

【第十部】次への一歩<7> 低投票率打破へ

2011年11月1日

授業は知事、市長の名前を答えるところから始まった=さいたま市立田島中学校で

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 「七月の知事選は誰が当選しましたか」

 「…」

 「わかりづらいかなー。名字は上田、下は?」

 「ハジメ」「タカシ!」

 「惜しい。清司さんです」

 十月二十七日、さいたま市桜区の市立田島中学校。三年のクラスで、安藤翔太先生(26)が「選挙について考えよう!!」という独自のプリントを使って、公民の授業をしていた。

 若者の投票率が低いと分かると、男子生徒が「選挙に行けるのが、どれほどいいことかを知らないから」と発言。安藤先生は「世界には市民が殺されるような独裁政権があるからね」。投票率向上には「電話やメールでの投票がいい」などの声が上がった。

 「大人になっても選挙に行かない」と言っていた男子生徒は、授業を経て「行けたらいいな」と態度を変えた。「授業は面白かったけど、政治家は信用できない」と言う女子生徒も。安藤先生は「『行く』にならなくてもいい。興味を持つことが大切」と話した。

 投票率24・89%、全国知事選で最悪の記録−。知事選は、三選を果たした上田清司知事(63)が最も恐れていた結果になった。

 上田陣営の低投票率への危機感は、過熱していた。「新聞やテレビで選挙戦があまり報じられず、盛り上がらない」として、上田氏は個人演説会で「県庁はもう新聞なんか取らないぞ」と怒りを爆発。翌日には、候補者活動などをもっと報道するよう各社の支局長あてに選管委員長名の正式文書を出した。「急告!」と大書きした案内状で県内計五十自治体の首長を集め、前回知事選の投票率ワースト3の自治体名を赤字で資料に表記して鼓舞。異例の対応を重ね、陣営は「最低でも30%」と意気込んでいたのだが−。

 三選の三日後。県が選挙啓発に起用した、女子サッカーW杯で優勝したなでしこジャパンの佐々木則夫監督(53)が県庁を訪れた。佐々木氏が「(なでしこは)ぎりぎりで(優勝)したけど知事は楽勝でしたね」と水を向けると、上田氏は「面白くない試合で途中で観客が帰っちゃった。最後まで投票所に向かわないで」と寂しそうに応じた。

 上田氏は「選挙啓発には限界がある。教育現場で政治の意義を学んでもらう必要がある」と言う。だが、現行の学習指導要領では政治の仕組みは教えるが、現実の政治を題材にした学習は先生のやる気次第。大統領選の模擬投票を小学校でやる米国、政府が「政治教育センター」を設けて、教材作りや教員向けセミナーなどで学校を支援するドイツなどとは大きな差がある。

 「欧米で劇的に投票率が伸びたデータはない」と小玉重夫・東京大教授(教育学)は言う。だが「学力は塾でも身に付くが、『市民』を教育できるのは学校しかない」と指摘。「中立性を確保した上で、例えば高速道路無料化など論争のある問題で、複数の立場があってそれぞれ一理あることを理解し、どう判断するのかを学ぶのが重要だ」と提言している。 (前田朋子、杉本慶一)

  =第十部おわり

     ◇

 連載「彩の国 まつりごと」は、第十部で終わります。

 <政治教育> シチズンシップ(市民性)教育の一環として、司法教育や消費者教育とともに、欧米などの学校で導入されている。国内で先進自治体とされる神奈川県では昨年、県立高校で参院選の模擬投票があった。4月に発足した総務省の「常時啓発事業のあり方等研究会」が、「社会参加」と「政治的判断能力」をキーワードに自立した主権者育成を目指している。研究会では、学校現場での模擬投票の普及や出前講座のほか、次期学習指導要領に政治教育を盛り込む案も議論されている。

 

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