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【おそろし 謎めき 北関東の怪談・奇譚】

流されたのは片品川か 猿聟(群馬県沼田市)

猿が流されたと伝えられる尾合地区の近くの片品川=沼田市白沢町で

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◆末娘は、猿にうすを背負わせたまま登らせた

 昔、おじいさんと三人のきれいな娘が住んでいた。おじいさんは毎日、一人で畑仕事。ある日、疲れたので、「だれか畑仕事をしてくれる人はいねえかな。そしたら、三人の娘の一人ぐらいはくれてやる」と独り言を言ってしまった。それを聞いていた山の猿がやってきて「それじゃあ、おれがやってやる」と娘をもらうことを約束して畑仕事をこなしてしまった。

 「猿と妙な約束をしちまった」と足取り重く家に帰ったおじいさん。上の二人の娘からは「だれが猿の嫁に行くもんか」と断られたが、末の娘が「心配なんかしなくても、わたしが猿のところに嫁に行くよ」と言ってくれた。

 猿と山に入った末娘は翌日、「里帰りをするので、おじいさんの好物の餅をついてくれ」と猿に頼んだ。餅の入った、うすを担いだ猿と末娘が山道を下ると、美しい花が咲いていた。花を採ってもらうため、末娘は「うすを下に置くと餅に土の臭いが付いてしまうから」と猿にうすを背負ったまま、花の咲く木の枝に登らせた。重みで枝が折れ、猿は下の川に落ちて流された。それから猿は山から出てこなくなったという。

(絵本「かたりつぐ白沢むかしばなし」より) 

     ◇

 尾瀬や谷川岳などの玄関口、県北部の沼田市。白沢町尾合地区は利根川の支流・片品川に落ち込む河岸段丘上にある。

 トマトやコンニャクの栽培、稲作などが中心の農村地帯。夏の強い日差しと一面に広がる緑がまぶしい。山あいにある天台宗の寺院「禅定院」は承和十四(八四七)年に開かれた沼田の名刹(めいさつ)だ。猿聟(むこ)の民話を探りに同寺院を訪ねた。

 飯田祐中住職(65)の母清子さん(94)が「はっきり覚えてないけど、五十年ほど前にだれかに聞いたことがある」と語ってくれた。前橋市の民俗学の研究家も昭和四十年代に尾合地区を調査した際、この民話を知り、猿が流されたのは片品川と推測されるとの証言を得たという。

 一方、沼田市と合併前の旧白沢村と村教育委員会が一九九二年に発刊した民話の絵本「かたりつぐ白沢むかしばなし」の編集に携わった沼田市白沢町振興局長の木暮茂さん(62)は「新潟県など全国各地に同じような話がある。他地区から伝わった可能性が高い」と指摘。飯田住職も「旧新治村や旧六合村にも似た民話がある」と尾合発祥の可能性は低いと見る。

 地元で、猿聟を語り継ぐ古老は見つからなかった。伝承の経緯はともあれ、尾合にこの民話が残るのは事実で、歴史への興味は尽きない。(山岸隆)

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<メモ> 尾合地区へは関越自動車道・沼田インターチェンジから車で約15分。JR沼田駅からバスで約25分。周辺に老神温泉と吹割の滝、日帰り温泉施設「白沢高原温泉 望郷の湯」「南郷温泉 しゃくなげの湯」など。両施設に農産物直売所もある。問い合わせは、沼田市白沢町振興局=電0278(53)2111=へ。

 

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