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【おそろし 謎めき 北関東の怪談・奇譚】

乱獲への警告なのかも 虚空蔵さまのうなぎ・大谷寺(茨城県筑西市)

大谷寺境内にある伝説の池の間に立つ舘野義久さん(左)と横川日成住職=茨城県筑西市で

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◆「目が悪くなる」…村ではこの魚は食べません

 大谷寺(茨城県筑西市大谷)には、虚空蔵(こくぞう)さまを祭るお堂があります。昔から、この村では「ウナギを食べると目が悪くなる」という言い伝えがあります。夏になり、用水路に漁具を仕掛け、川魚を捕っていましたが、ウナギは決して食べません。

 隣の村から婿入りしたウナギ好きが「この世の中でウナギほどうまいものはねえ」と周囲の反対を押し切って、何匹ものウナギを捕獲しました。

 意気揚々と帰ってきましたが、虚空蔵さまの近くを通りかかると、ウナギが暴れ出し、寺の池に。ばつが下って、婿は金縛りに遭い動けなくなってしまいました。

 虚空蔵さまは、困っている人たちを救う心優しい仏様でもありました。池に飛び込んで遊んでいた子どもがおぼれかかり、助けたこともあります。

 ところがある日、池の中にいるヒルに吸い付かれ、虚空蔵さまも痛さとかゆさについに悲鳴を上げました。ここで救世主として登場したのがウナギです。ヒルを飲み込んで取り除きました。

 こうしてウナギは、虚空蔵さまの使いのものになりました。ウナギは「人間の目さえ見えなければ、捕まらなくてすみます」と頼み込み、その願いはかなえられました。

 それから村では「ウナギを食べると目が悪くなる」という戒めが広まりました。虚空蔵さまは、目の病に御利益があるといわれ、今も寺にお参りする人が多いといいます。(舘野義久編「下館の昔話」の「虚空蔵さまのうなぎ」より)

     ◇

 「この一帯はクヌギ林で覆われていた。それが畑に変わり、今は田んぼ。隔世の感があります」

 約五十年前、「虚空蔵さまのうなぎ」をまとめた元小学校教諭舘野義久さん(80)と一緒に大谷寺を訪ねた。

 栃木県境に近い寺の境内は、せみ時雨が降り注いでいた。虚空蔵菩薩(ぼさつ)を祭る虚空蔵堂は、かやぶき屋根の重厚なたたずまいだ。その東側に、薄桃色のハスの花が咲く伝説の小さな池があった。

 迎えてくれた横川日成住職(72)は「池はかなり大きかったらしいですが、今は申し訳程度。金魚が泳いでいるだけです」と話す。

 横川住職によると、目が不自由で、治癒の祈願にお参りにきた近所の人が、実際に目が見えるようになり、その家には、お礼に建てたという石碑が今も残っているという。

 お参りしていた檀家(だんか)の一人、小山市の鈴木正子さん(62)は「神の使いだといって、祖父母はもちろん、父や父のきょうだいも決してうなぎを口にしませんでした」と懐かしむ。

 横川住職は「動物も植物も共生する、仏教の教えの一つとして、この伝説が誕生したのでは」と考える。

 夏のスタミナ料理として人気が高いウナギ。今夏、稚魚の不漁で高騰が続くが、うなぎ伝説は乱獲などを防ぐ昔の人の知恵なのかもしれない。 (原田拓哉)

     ◇

 夏といえば怪談。群馬、栃木、茨城の北関東三県にも恐ろしい話や不思議な話がたくさん伝わっています。地域の伝承・民話を後世に残す意味も含め、いくつかを紹介し、記者の見聞を添えて届けます。

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<メモ> 筑西市の北西部に位置する大谷寺は、市中心部の下館駅から車で約15分の距離。市内で立ち寄りたいのが、下館駅近くの板谷波山記念館。同市出身で、陶芸家として初の文化勲章を受章した波山の足跡を紹介している。ご当地グルメは、市も後押しする「筑西きむち」。和風味が特徴の筑西きむちをアレンジしたメニューが市内17店舗で味わえる。

 

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