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【変わる知の拠点】

<第3部>揺らぐ司書像(2) 非正規職員

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 大都市まで電車で三十分ほどの人口十万人弱の地方都市。その自治体直営の図書館に勤務する司書、鈴木優子さん(35)=仮名=は書架の一角を見て、いつもため息をつく。

 「あの和装本を整理して、閲覧できるようにしたいなあ…」。恐らく江戸時代のものが二百冊余り。だが、鈴木さんは残業も許されないパート。日々の業務に追われ、とてもそんな暇はない。

 今、日本の公共図書館で働く人のうち、正規職員が減る一方、パートやアルバイトといった非常勤・臨時職員が年々増えている(図参照)。これに指定管理へ移行した館の委託・派遣職員も加えると、正規職員以外の図書館員は昨年で67%に上る。うち司書(司書補)の率は、正規職員が51・9%なのに対し、正規以外が54・9%。司書が不安定な雇用形態のまま、図書館で重要な役割を果たしているケースが非常に多いのだ。

 鈴木さんがこの図書館に勤め始めてから十年を超えた。本が好きで、営業ノルマのない仕事がいいと図書館員を選んだ。応募条件は司書資格を持っていることだったが、「普通の事務パートと同じ扱いです」。雇用形態は日雇い。月収は十万円に満たず、勤務は月十五日まで。夫と住む近隣の市から通うが、電車賃の補助は片道分も出ない。

 正規職員は三人いるが、三年ほどで異動になることが多く、現場の実務を仕切っているのは二十人ほどのパート。ほぼ全員が司書資格を持ち、「とても仕事熱心です」。

 貸し出しや返却、レファレンス(利用者が求める資料の検索・提供)の窓口業務は全員で、本の予約などの仕事は複数人が交代で担当する。もちろん、残業は一切ダメ。「すごい密度でこなしても仕事が終わらない」。図書館の質を左右する選書や蔵書管理もパートが担当する。もはや蔵書について、ベテランのパートより詳しい職員はおらず、“知の拠点”としての継続性は薄氷の上にあると言ってもいい。

 館の独自研修は一切ないため、鈴木さんは個人で図書館協会の研修を受け、利用者の要望に応えようとしている。「タダで帰さない、が私のモットー。来て良かったと感じて帰ってほしい。来館者の人生の質を高めるための、お手伝いができればうれしい」

 「図書館の全業務をこなすことができ、やりがいはある。今の仕事は満足しています。待遇以外は…」。だが、正規職員として図書館司書を募集する自治体は極めて少ない。女性が多い職場だが、働きながら結婚や出産も難しい。「いずれ子どもができたら辞めざるを得ないかも…」。それはパートが一人辞めるだけかもしれないが、図書館には大きな損失なのだ。

 関東地方の自治体の中央図書館に勤める司書、河野真二さん(30)=仮名=も非常勤職員だ。

 周辺の図書館の指定管理化が進む中、自治体直営の同館でも貸出カウンターなどが委託になったが、「レファレンスだけは直営で」と正規・非常勤の職員が担当する。ただし、非常勤が全員司書なのに対し、正規に司書はいない。「正規の人が利用者に『分かりません』と回答してしまう例が多い。私たち非常勤が『必ずこちらに回して』と口を酸っぱくして言ってます」

 仕事は正規と同じだが、非常勤が働けるのは週三〜四日。賃金も低い。「一人暮らしの人は全員、書店員などのアルバイトをしています」

 「非常勤が図書館を背負っているという自負がある」と語る河野さん。「非常勤から非常勤へと、図書館の仕事を伝えていけば、最低限、図書館はつくっていける。正規職員が長く図書館に勤め続けることができないのなら、これがベストなのかも…」と苦笑いした。(三沢典丈)

 

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