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【変わる知の拠点】

<第3部>揺らぐ司書像(3) レファレンスとコンシェルジュ

利用者に展示物の説明をするコンシェルジュ=東京・九段南の千代田区立千代田図書館で

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 「このあたりで、土曜日もやっているおいしいレストランはありませんか?」

 図書館のカウンターで、館の資料とは直接関係がない、こんな質問をしてみる。どんな回答が返ってくるだろうか。

 皇居のすぐ近く、東京都千代田区役所のビル九・十階にある区立千代田図書館に入ると、正面に白いカウンターがある。淡いブルーの制服を着たスタッフの押田径子(みちこ)さん(36)に尋ねると、こちらを見て、にっこり笑いながら、横に置いてあるバインダーファイルを開いた。区内のカレー店、喫茶店などの情報がまとめられている。「どんな雰囲気がお好みですか」。図書館から徒歩五分圏内、十分圏内と距離別に紹介し、「ここなどはいかがでしょうか。私も行ったことがあります」。インターネットのホームページも参照しながらやりとりするうち、良さそうな店が見つかった。

 押田さんは、千代田区が日本で初めて導入した「図書館コンシェルジュ」の一人だ。二〇〇七年に全館リニューアルして以来、カウンターに座る。司書の資格はない。

 「司書が本の専門家だとすると、私たちは、この街の専門家です」。館内の案内に加え、蔵書にとどまらない地域の情報を提供するのが役割だ。例えば館からほど近い古書の街・神保町。インターネットには、古書店の商品の検索サイトもあるが、実はアップされているのは各店にある在庫の約一割にすぎない。「実際にお店に行ってみないと分からないことも多いんです。古書店はそれぞれ得意なジャンルがあるのですが、私たちは神保町の店を日ごろから訪ね歩いているので、ネットに載っていなくても、ここならあるかもと見当がつけられます」

 知りたい情報がある時、公共図書館には、来館者の調べごとの相談に応じる「レファレンス」というサービスがある。どんなことが知りたいのか、館内のカウンターで伝えれば、それに合った資料や、効率的な調べ方を職員が教えてくれる。

 ここ数十年、蔵書管理の電子化が進んだことで、本の目録づくりなどで保たれていた司書の仕事の専門性は薄れてしまったといわれる。一方で、プロとしての能力が必要とされる仕事として、図書館の側は、レファレンスを重視する。「知の拠点」が本来の価値を発揮するためにも、調べる力をサポートする役割は大きい。

 だがこのサービス、狙い通りに使われているとはいい難い。国立国会図書館が昨年度行った調査では、レファレンスの一日あたりの受付件数の平均がおおむね二件に満たない図書館が、四割近く存在する。調査に携わった青山学院大教授(図書館情報学)の小田光宏さん(56)は「現状ではレファレンスという言葉自体、あまり浸透していない。図書館は本を借りるところ、という認識しかない利用者も多い」と話す。

 コンシェルジュは、レファレンスの変化型。利用の敷居を下げ、レファレンスでは対応しにくかった部分を取り込むことで、館の利用価値を上げようと考えられた役割だ。(1)来館者に積極的に声を掛ける(2)蔵書以外の情報も伝える(3)「お薦めの店はどれか」など情報の価値判断をする−を基本とする。蔵書の専門的な質問はレファレンスに引き継ぐ。「図書館は、求められれば答えるという受け身のサービスになりがち。公の機関として中立が必要ということで、価値判断も避ける傾向にある。でも専門家としては、情報を判断しながら伝える必要があると考えたのです」。千代田図書館のリニューアルに関わった元館長で現国会図書館司書監の柳与志夫(よしお)さん(58)は、狙いをこう説明する。

 インターネットが普及し、簡単な調べごとは誰でもしやすくなった。「今、求められているのは、情報そのものよりも、『これがいい』とその価値を判断し、伝えることができる専門家。今後は、千代田のコンシェルジュが担っている役割をレファレンスサービスのほうに取り込んでいく必要もあると思う」と小田教授。

 図書館をもっと魅力的にするヒントとして、注目が集まっている。(中村陽子)

 

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