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【変わる知の拠点】

<第3部>揺らぐ司書像(4) 正規職員

名古屋市瑞穂図書館のグランパスコーナー。田中敦司館長は「観戦記を書くのも大変」と笑う=名古屋市瑞穂区で

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 望ましい司書像とは−。

 「本が好きなら司書になれると思う人が多い。でも、本以上に人が好きじゃなきゃだめ。人と本の間をつなぐのが司書なのですから」。名古屋市瑞穂図書館長の田中敦司さん(54)は、こう語る。

 名古屋市は鶴舞中央図書館を含め、市内に二十一の図書館がある。同市では今春から指定管理となった一館を除く二十館が今も直営。その全館に司書の正規職員がいる。田中さんは一九八二年に採用されて以降、市内のさまざまな図書館に勤めながら、経験を積んできた。

 瑞穂図書館は市中心部に立地。建物は古いが人の出入りは多い。二階の書架は実用書が一番手前だ。「妊娠している方や病気の疑いを抱いた人が苦労して書架の奥に入らなくていいようにしました」

 地域資料にも力を入れる。区内の瑞穂公園陸上競技場をホームとするサッカーJ1、名古屋グランパスにちなんで、関係する本のほか、試合ごとに発行される「マッチデープログラム」も収集する。瑞穂の試合は、田中さん自身が観戦し、観戦記を壁に貼って報告している。館長の今もレファレンス(資料の検索・提供)サービスをする。「最近もシックハウス関係の問い合わせで、市の衛生研究所の年報を紹介したところ、大変喜んでもらいました」

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 ただ、こうした仕事は司書でなければできないのか。日本図書館協会は一九七四年、「図書館員の専門性とは何か」について最終報告した。その専門性とは「(1)利用者を知る(2)資料を知る(3)利用者と資料を結びつける」の三点。抽象的な印象は否めない。

 同協会では、図書館経営の中核を担う人材を育成しようと、二〇一〇年度から上位資格「認定司書」の制度も創設した。第一期の認定司書でもある田中さんは、重要なのは「やはり館長が司書であること」と強調する。「司書個々人には本の専門知識だけでなく、コミュニケーションなど得手不得手がある。司書として経験を積んだ館長が、部下の司書の能力を引き出す。そんな館長の下で経験を積んだ司書がやがて館長になり、後進にバトンを渡す。これが本来の意味で図書館が永続するということでしょう」

 司書にこだわるのは「趣味として本が好きなのではなく、仕事として本が好きなのが司書」だからだ。だが、その違いは、図書館の利用者でないと分からない。「公共図書館は市民の税金でつくった共用の書庫。市民が使い倒してほしい。そうすることで、司書の実力も養われるのです」

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 他方、多くの市町村では司書でも他部署への異動が珍しくない。愛知県半田市立図書館に勤め、田中さんと同期の認定司書、戸田豊志さん(51)もそんな異動を経験した。

 中学生のころから毎週、古書店巡りをするほどの本好き。大学で司書資格を取得し、八四年、現図書館に採用された。九二年、ほとんど整理されていなかった約一万冊の江戸、明治期の和装本目録を、古文書に通じた研究者の協力のもとに完成させた。だが、九八年に市民課に異動。「蔵書構成を把握しつつ、新刊の出版状況などを調べていたので、この異動はきつかった。それでも買った方がいい本のリストは、二〇〇〇年に再び図書館勤務になるまで作り続けました」。正規職員の司書として、戸田さんは「郷土資料の調べ物に多く携わり、長年、蓄積をしてきたので、半田市に関するレファレンスには自信がある」と語る。

 だが、同じ司書でもかつては「一般の職員が図書館勤務になると、自治体の命で司書講習を受けるケースもあった」。熱意があっても「旧字が読めない司書もいた。これでは戦前の郷土資料を使った調べ物ができない」。司書資格は比較的簡単に取得できるため、レベルに差があるのだ。「採用する際、図書館に向いているかどうかの判断を専門職がすべきだと思います」

 だが、戸田さんが最も問題視するのは、“知の拠点”のはずの図書館を充実させてこなかった自治体の姿勢だ。「近年まで、図書館を職員の左遷先にしてきた自治体も多かった。民間に委託して良くなったといわれるのは、コンセプトのないまま、覇気のない職員によって運営されてきた図書館ではないでしょうか」 (三沢典丈)

  =おわり

 

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