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【変わる知の拠点】

<第4部>図書館がつなぐ(1) 地場産業への貢献

収穫を前に、大根の生育状況を確認する宮本さん=栃木県内で

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 図書館が「知の拠点」として、もっと活用されるためには、何が必要なのだろうか。そのヒントになりそうなキーワードは「つながり」だ。図書館が別の機関と連携することで、新たな利用者層にアピールし、地域に新しい力を与えている。各地の事例を取材した。

 澄んだ秋の日差しを浴びて、収穫を控えた大根の葉が勢いよく広がる。隣は、実をつけはじめたカリフラワーの列。手前には、ミントやローズマリーなどのハーブがこんもり茂っている。栃木県小山市に住む宮本弘作(こうさく)さん(67)の畑。千坪(約三十アール)に、十種以上の野菜や果物を植える。「農業を始めたきっかけは、図書館で受けた講座でした」

 七年前、三十年以上勤めた都内の商社を定年退職した宮本さんは、自宅近くの小山市中央図書館にぶらりと出掛けた。「第二の人生では、自然相手の仕事をしたいと漠然と考えていました。でも会社人間だったので、地元の知り合いもあんまりいない。図書館なら、何か見つかるかなと」

 ちょうど館で起業支援の講座が開かれることを知り、受けることに。農業に興味があると話すと、職員が関連する本を紹介し、県の農政課などで新規就農の相談ができることを教えてくれた。「自分だけでは、いきなり県庁になんて足が向かなかった。つないでもらったことが大きいですね」。県からの情報をもとに農業大学校でも学んだ。休耕地を持つ地主と交渉し、農地を借りられることになった。

 「個人で突然、地主さんに話しに行っても駄目だったと思う。段階を踏んだことで、信用してもらえたんじゃないかな」。今も、分からないことがあると図書館に行き、本を見ながら、適した品種や肥料、剪定(せんてい)などの試行錯誤を繰り返す。「だんだん納得いくものが作れるようになってきました」。収穫した野菜は、都内で息子が開いているイタリア料理店に卸すほか、近くの道の駅で販売している。

農業に関する情報コーナー。農業に役立つ本のリストや、関連機関のパンフレットが並ぶ=栃木県小山市の市中央図書館で

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 図書館での「ビジネス支援」サービスは、この十年ほどで注目度が急速に高まった。「図書館は文学作品を借りる場所、というイメージを持つ人が多いですが、それは蔵書のほんの一部。もっと幅広い利用者の役に立てるよう、企画されたのがビジネス支援です」と、小山市中央図書館の司書・大塚由香利さん(41)は説明する。

 ビジネスというと、都会のベンチャー起業などの支援が一般的だが、小山市では、とりわけ農業支援に力を入れる。「農業は、この地域の重要な産業。平野が続く耕作に適した土地で、東京からの交通の便がいい。週末農の希望者も多いんです」。館内には、農業コーナーとして、関連書約二百冊を集めた棚や、ハトムギや二条大麦など市の特産物を展示するガラスケースがある。県の農政課や農業振興公社、農協など、関連機関のパンフレットも充実している。

 農協などの関連機関も、それぞれに支援の相談窓口を持つが、その内容や対象が少しずつ異なる。図書館では、本だけでなく、それらの機関の広報資料も積極的に集めて発信することで、利用者が自分に合った支援が受けられるのはどこなのか、分かるようにしてあるという。「具体的な支援は、それぞれの専門機関に行く必要がでてくる。でも、図書館はどんな人でも、気軽に入りやすい場所。まずはここに来れば、やりたいことの糸口がつかめるようにしていきたい」と大塚さん。専門家の協力を得て、定期的に農業相談会も開いている。

 昭和女子大の大串夏身(なつみ)特任教授(図書館情報学)は、こうした取り組みについて「地域の実情に合わせた支援で、全国の図書館が参考にできるはず」と評価し、「ほかにも地元企業の特許取得の支援など多様な具体例がある。工夫次第で、地域力の底上げにつなげられるだろう」と話す。

 宮本さんは、図書館の講座で知り合った酪農家と、その後も交流を続け、堆肥の交換などで協力しあうようになった。「長年、暮らしてきた街ですが、あらためてこの地域と出会ったような気がしています」 (中村陽子)

 

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