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【変わる知の拠点】

<第4部>図書館がつなぐ(2) まちライブラリー

「人と人をつなぎたい」と話す礒井純充さん=大阪市中央区のまちライブラリーで

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 灯(あか)りを落とした境内に、木柾(もくしょう)の音と読経の声が響く。金曜日の午後七時すぎ。会社帰りの女性ら約二十人が、正座で静かに手を合わせる。「四谷怪談」のお岩さんが祀(まつ)られているという東京・四谷の陽運寺で、毎月開かれている開運祈願祭。お参りを終えた参加者は、静かに帰り支度をしながら、奥にある書棚を眺めた。プレートには「まちライブラリー」の文字。ここは、本を借りられる「図書館」でもある。

 「まちライブラリー」は、カフェや病院の待合室など、街の中に、訪れた人が誰でも利用できる小さな読書スペースを作り、出会いや交流の拠点にしようという取り組みだ。

 陽運寺の書棚に収められた二百冊は、すべて祈願祭の参加者らが寄贈した本。一冊を選んで手に取ると、表紙の裏にまちライブラリーのカードが挟まり、寄贈した人のメッセージが手書きされている。<「星の王子さま」−読む度に感じることやうなずく場所が違うのも面白いので、自分の変化を見るものさしの一つです>。会員登録をして、挟んである「貸し出しカード」に記名すれば、好きな期間借りられる。借りた人が感想を書く欄もある。毎月ここに来ているという目黒区の自営業・森秀樹さん(38)は、「自己紹介や感想を読むと、直接に話をしなくても、少しつながりがあるように感じます。ほかのまちライブラリーにも行ってみたくなりますね」と話した。

 副住職の植松健郎(けんろう)さん(39)は「ここは、人と人との縁をつくる場所。ただお参りをして終わるのではなく、来てくださる方の横のつながりもできれば」と、設置した理由を説明する。

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 まちライブラリーは、全国に約六十カ所あり、急速に増えている。提唱者は、「森ビル」の社員として有料図書室を備える「六本木アカデミーヒルズ」の運営に携わった礒井純充(いそいよしみつ)さん(55)。会社の仕事とは別に、個人的なボランティアで活動している。「六本木では有識者を招いたセミナーなどを企画していましたが、大規模になってしまって。もっと互いの顔が分かるサイズの交流の場が必要だと感じるようになったんです。大きな図書館があれば便利になるとは限らない。街の居酒屋のように、わがままを聞いてくれる図書館があったら」と礒井さん。

 二〇〇六年、自身の実家が所有する大阪市内の貸しビルの一室に愛蔵書を置き、街の人に公開しはじめた。「本が主役ではなく、あくまでも人が主役の交流の場。利用者には自分の本を寄贈してもらい、自己紹介の代わりに、本の紹介をしてもらっています」。定期的に利用者が企画するイベントも開かれる。

 考えに共感する人とともに、その後、東京や大阪の数カ所でまちライブラリーを開設。読書の場を共有したいという人たちから問い合わせが続き、全国に広がっていった。蔵書の管理は、インターネットで私設図書館の本を登録できる「リブライズ」という仕組みを使い、特別なシステムは必要ない。

 「まちライブラリーを名乗ることで、人と人、人と本とをつなぐ場所がここにあるんだということが、みんなに知ってもらえる。ルールはあるけれど、同じ運営形態でなくてもいいんです。書棚のオーナーが個人でできることを、できる範囲内ですればいい」

 礒井さんは今、まちライブラリーだけでなく、全国の小さな読書スポットを紹介する本をまとめている。「公立の施設である必要はない。個人がゆるやかにつながれる場所が、求められているんだと思います」(中村陽子)

 

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