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【変わる知の拠点】

<第4部>図書館がつなぐ(4) 医療支援 地域で連携

精密な人体模型を示す森田さん。内臓を取り外して形を確かめることができる=鳥取大医学図書館で

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 「うちは千客万来です」と鳥取県米子市にある国立鳥取大医学図書館長の成瀬一郎さんは語る。大学の医学図書館と聞くと近寄りがたいが、ここは入り口近くに軽飲食可の閲覧コーナーがある。医学雑誌の棚の横には一般書に加え、「ブラックジャックによろしく」などの漫画もある。

 二〇〇一年の情報公開法の施行以降、国立大学の付属図書館は一般公開が進んだ。しかし、蔵書の専門性から学外の利用は多くない。同医学図書館でも〇八年度までは年に約二百人。だが、その後徐々に増え、一昨年は八百人超に達した。

 実は同時期、学生で貸し出しを利用した数も六千人から一万一千人へと大幅に増えた。「医学を知らない新入生に、人体に親しんでもらう学習支援を始めたのが最初です」と統括司書の森田正さんは振り返る。

 鳥取大は米子市に医学部、鳥取市に他の全学部がある。以前、医学部医学科の学生は初年度は鳥取で一般教養を学んだが、〇八年度以降、最初から米子で学ぶことになった。新入生を専門知識に橋渡しする役割が図書館に求められたのだ。

 図書館では大学の教員と協力し、まず入門書を集めた「人体コーナー」を設置。資料を紹介するセミナーも開いた。一般書を増やしつつ蔵書を持って教室まで出向いて利用を訴えた。一一年には精密な人体模型を導入し、解剖実習を前にした学生に好評を博した。

 新入生向けサービスは、地域住民も呼び寄せ、今は地元の開業医が最新の治療法を調べに来る。成瀬さんは「ここが鳥取県西部地区の医療関係者の拠点になれば」と期待する。

 鳥取市の県立中央病院でも図書館が活躍する。以前からボランティアが運営する文庫に加え、一一年、患者と職員向けの図書室を新設した。司書が常駐し、県立図書館の本ならすべて借りられる。

 司書の中島志乃さんは「ある患者の方が『入院中に表計算ソフトの関数を学びたい』と解説書を希望されたことも。患者を日常生活と切り離さないための支援が必要なのです」と語る。中島さんは職員専用の図書室も担当し、医師や職員からの専門的な依頼もこなす。患者も医師も欲しい情報を素早く得るための核に図書室がある。

 こうした積極的な医療支援を根幹から支えるのが、鳥取市にある県立図書館の百万冊の蔵書を血液のように県内全域に巡らせる独自のネットワークだ。

 県立図書館からは、全市町村立図書館や高校、各種センターなど二十八拠点に対し、年間三万五千冊に上る貸し出しが、年末年始を除く毎日行われている。高価な本は県立図書館が買い、各拠点に貸し出すなど、役割分担も確立されつつある。どこで貸し出しを申し込んでも二日以内に本が届くのが最大の売り。同図書館支援協力課長の小林隆志さんは「この物流システムは全国一。巡るのは本というより情報なので、早く届かなくては意味がない」と語る。医学図書館や中央病院図書室もこれを基に、独自の取り組みを行う拠点の一つだ。

 ネットワークは一九九〇年の県立図書館の新築を機に整備が始まり、九九年に図書館を「民主主義の知の砦(とりで)」と呼ぶ片山善博知事が就任すると、利用の間口を広げるだけでなく、活用が加速した。

 その第一弾が〇四年から取り組むビジネス支援。職員が経済団体の研修会に参加して助言を受け、大手調査機関による調査資料などを蔵書に加えた。図書館に相談に訪れた企業が新製品開発につなげるといった成果も出ている。〇六年から始まった医療支援では医療施設との連携のほか、館内に闘病記文庫を設置。司書が看護師のセミナーに出向き、利用法などを説明する「営業」も欠かさない。

 情報伝達のために世話を焼く−。そんな姿勢は書架にも表れ、県民の要望が高い法律の棚は既存の分類法を無視し、離婚など利用頻度が高い項目がまず目に入る。「人と情報をつなぎ、活用してもらうのが図書館の役割。従来は読み物好きの施設となっていた」と小林さんは苦笑いする。

 こうした実績を積み重ねた結果、県立図書館の資料費は毎年一億円を超える。同県の人口は全都道府県で最少の五十七万人だが、この額は全国有数だ。

 館長の高橋紀子さんは言う。「本を読まず、図書館など関係ないと思っている人にも、図書館の持つ情報が役立つことを理解してもらい、利用を働きかけていく。それが公立図書館本来の仕事ではないでしょうか」 (三沢典丈)

 *連載「変わる知の拠点」は今回で終了します。変貌する図書館の姿を、今後も随時記事にしていきます。

 

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