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【未来の食卓】

高級魚イワシ 金の皿で回る

内浦漁港に停泊する増田さんの「巻き網」漁船=静岡県沼津市で

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 東京郊外の回転ずし店・二〇二〇年一月七日夕

 五輪(いつわ)家の勝利(かつとし)(36)、妻の希(のぞみ)(33)、長男の勇気(ゆうき)(8)が食事している。

 勝利 「松の内も終わりだからちょっとぜいたくするか。今日は金の皿を食べてもいいよ」

 勇気 「ワーイ」

 二個で千円のイワシの皿を取る。

 希 「昔は大衆魚だったのにねえ」

 近い将来、こんな風景が現実になるかもしれない。

 日本の漁獲量は、多くの魚が一九六〇年代から八〇年代をピークに減る一方。イワシは九分の一、サバは四分の一にまで減少した。乱獲が原因の一つだ。

 弱体化する漁業を支えるのが二〇一三年度で千二百億円超の補助金。米国は補助金が乱獲を助長していると環太平洋連携協定(TPP)交渉で主張、日本と対立する。補助金がなくなれば漁業のコストは上昇、大衆魚に至るまで天然物は高額になりそう。ただ、補助金の有無にかかわらず従来ペースで魚が減れば、値段は上がる。中国などアジア諸国の漁獲高は急増中だ。

 「このままなら太平洋の水産資源は枯渇、漁業は早晩行き詰まる」。水産庁で漁場資源課長を務めた小松正之氏が警告する。

◆太平洋 乱獲の海

 「最近は黒潮の蛇行がひどくてな」。山を背負った小さな内浦(うちうら)漁港(静岡県沼津市)。漁師・増田秀弥さん(66)は昨秋のサバ漁の不調を嘆いた。四隻でつくる船団の共同代表。黒潮に乗ってくる魚を、レーダーで探り網で囲む「巻き網」で捕る。

 世界的な気候変動の影響で海流が変化。「ここ何年も変な気候に悩まされている」。漁船の燃料費上昇も痛い。十年前に一リットル七十円だったA重油は百円だ。

 漁業は気候や燃料価格に左右される不安定な産業。こうした漁業を国は補助金で支えてきた。不漁時の所得穴埋めや燃料費の助成、漁港改修や市場整備など公共事業にも回る。

 米国の補助金撤廃要求について「もし、なくなれば漁協も漁協が運営する市場もみんなダメになる。なぜ日本のルールに海外から口出しされなきゃいけないんだ」。増田さんは怒る。

     ◇

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 ただ、日本の漁獲量が往年のピークから落ち込み、回復していないのは事実。海外の漁業に詳しい大手水産加工会社の幹部は「補助金を廃止し、ノルウェーなど漁業先進国の取り組みを手本に日本の漁業を改革すべきだ」と力説する。

 ノルウェーも日本と同じく乱獲の影響で八〇年代に漁獲量が激減。アイスランドなど周辺国と協定を結び、魚種によって禁漁を含む厳しい管理で回復。今は漁船ごとに漁獲枠を設定する。魚を捕ったらすぐに海上でインターネットでオークションにかけ、最高値で落札した漁港なら隣国でも水揚げできる枠組みも構築。「資源を守りつつ、国際入札で魚価を高め漁業者の稼ぎを確保した」(同幹部)

 各国の連携で水産資源を回復した大西洋と裏腹に、太平洋では各国の足並みは乱れるばかりだ。

 日本はアジやサバなど八種の漁獲制限枠を自主的に決めているが、実績より大幅に多く、上限に達する恐れがないため「魚がいたらすべて捕ってしまう」(静岡県の漁協幹部)。豊かになるアジア各国も猛烈な勢いで魚を捕っている。中国の漁獲量は二〇一一年時点で千六百万トンと三十年前の五倍。特に夜間に袋状の網に光でサバなどを誘い込み小魚もポンプで吸い上げる中国の「虎網」漁法は国際的にも問題視されている。

 「中国が入っていないTPPで各国が補助金を撤廃しても意味がない」と政府は主張するが、元水産庁の小松正之・政策研究大学院大学前教授は「各国が責任を押しつけ合っても問題解決しない」と指摘。「日本が中国などに促し資源管理のリーダーシップを示すべきだ」という。

 だが、年末の安倍首相の靖国参拝で、中国など周辺国との関係は悪化。太平洋の水産資源枯渇の懸念は続く。悪化する近隣国との関係は食卓の未来にも暗雲を投げかけている。 (吉田通夫)

     ◇

 「未来の食卓」は随時掲載します。

 <漁業の国際ルール> 国連海洋法条約は、領土の海岸線から200カイリ(約370キロ)以内の排他的経済水域(EEZ)内で漁業を独占的に営む権利を認めている。これ以外は「公海」で各国が相乗りで漁業できる。マグロなど魚種によっては漁獲を制限する条約も多国間で締結されている。

 

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