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【二月二十一日 ある死刑囚の記録】

(41)執行条件満たせば

黒塗りで情報公開された恵喜(右)と金川の執行の報告書。5番目の心情・遺言を記す欄の幅が大きく違う

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 二〇一三年二月二十一日。幼子の成長に目を細め、「生きたい」と願い始めていた加納恵喜(けいき)と同じ日、「死にたい」と望んだ男が死んでいる。東京拘置所で執行された金川真大(まさひろ)(29)。〇八年三月、茨城県土浦市で無差別に九人を連続殺傷し、二年後、水戸地裁での死刑判決が確定していた。

 裁判で金川は凶行の理由を「死刑になるため」と言い放った。この世はつまらない、生きている意味はない、でも自殺は痛い、それなら国に殺してもらおう−。異様な論理を振りかざし、死刑を宣告されると、笑みをこぼした。判決後、弁護人は控訴したが、すぐに本人が取り下げている。

 金川の国選弁護人だった山形学(45)はその言いざまが「本音だった」と振り返る。「女の子と付き合ったことないだろ」「面白いゲームが出るかもよ」。何とか生への未練を引きだそうとしたが「死」への執着は揺るがなかったという。

 だれを執行するか。法務省が持つ死刑囚リストの備考欄に再審請求や、恩赦の出願中とあれば、執行は敬遠される傾向がある。昨年十二月時点で、確定死刑囚百二十九人のうち、八十五人が再審請求を、二十六人が恩赦を求めている。執行が滞れば、死刑囚の人数は増え続ける。法務省刑事局の元検事は「事務方としては年に二、三回は執行したい気持ちがある」と打ち明ける。

 死を強く望んだからだろう。金川の執行は確定から三年一カ月。当時、五年半ほどだった平均より随分と早い。山形は言う。「彼にとって死刑は罰ではない。ああいう人間を生み出さないため、どうすればいいのか、きちんと研究するべきだった」

 恵喜の執行は二度目の恩赦が不相当とされてから半年とたっていなかった。もう一人、奈良女児誘拐殺人の小林薫(44)も同じ日に執行されているが、恩赦や再審請求を退けられ、新たに再審を求めようと準備中だった。

 情報公開された法務省の執行の報告書には死刑囚の心情や遺言を記す欄がある。すべて黒塗りで内容は分からないが、分量を比べると、恵喜は金川の四倍はある。獄中で多くの人々と触れ「人のぬくもりを知った」という恵喜には言い残したいこと、言い残したい相手があった。だが、執行する側からみれば、金川も、小林も、そして恵喜も同じ、執行に支障のない死刑囚だった。 (敬称略)

 

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