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【北関東の底力】

糸引かない納豆 夢は世界

納豆菌を培養する久保さん=茨城県茨城町の県工業技術センターで

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◆欧米輸出用の水戸納豆開発 茨城県工業技術センター主任 久保雄司さん(33)

 差し出された二つの納豆を、箸でこねる。一つは、すぐに豆を覆うように白い糸を引き始めた。もう片方は、せわしなく箸を動かし続けても、ようやく細い糸がわずかにできる程度。違いは一目瞭然だ。

 「箸でつまむと、豆がポロポロ落ちますよ」。茨城県茨城町の県工業技術センターの一室で、地場食品部門主任の久保雄司さん(33)が言った。試してみると、納豆なのに粘り気が少なく、説明の通りになった。

 糸を引かない納豆は、県の特産品の「水戸納豆」を欧米に輸出しようと、久保さんを中心に作った試作品。多くの外国人が納豆を好まない理由として、独特のネバネバ感を挙げているとのデータから、粘り気を抑える納豆菌を開発した。

 県工業技術センターは、企業や農家の依頼で食品を開発したり、成分などを調べたりしている。今回の納豆は、産学官でつくる「いばらき成長産業振興協議会」からの要請で、一昨年夏から研究を始めた。

 菌の開発は「ひたすら根気のいる手作業」と久保さん。化学物質の使用や遺伝子組み換えはせず、納豆菌の遺伝子の一部を壊して、容器で培養する。色などが変化した菌を見つけて取り出し、また培養して納豆を作る−の繰り返しという。

 理論上はできると考えていたが、見通しが立たないまま作業が続いた。試した菌は数百に及んだ。「(一昨年の)十一月末に成功した時にはガッツポーズでした」。においは抑えめ、味はくせが少なくあっさりしていて、納豆が苦手な県外出身者にも好評だった。

 県職員となって以来、ずっと携わった納豆への久保さんの思い入れは強い。「水戸納豆は県外のメーカーから、うらやましがられるブランド。決してダサい食べ物じゃなく、最先端を走ることだってできる」

 現在、納豆の欧米への輸出量は、ごくわずか。それも、外国人よりも海外在住の日本人向けが多いとされる。糸を引かない納豆は、フランスで今月開かれる国際食品見本市への出品が決まった。海外の和食ブームに乗り、水戸納豆が世界に広まる可能性もある。

 久保さんは、海外で挑戦することが、全国最下位になった県の魅力度アップにつながると考えている。「おいしい食べ物が多く、海も山も平野もあり、豊かさに満足して外にアピールしないのが茨城県。やる気を出せば、もっといける。納豆が、その一助になれたら」(宮本隆康)

<茨城県の納豆> 全国納豆協同組合連合会によると、都道府県別の納豆生産量の統計はないが、茨城の全国1位は間違いないという。大手メーカーの工場だけでなく、中小メーカーも多いのが特徴だ。

 総務省の2013年の家計調査では、水戸市の1世帯あたり納豆購入額は、5916円で全国で1位。近年は盛岡市や福島市などの東北地方に押され、2〜4位を行ったり来たりしていたが、7年ぶりに日本一に返り咲いている。

<くぼ・ゆうじ> 茨城県かすみがうら市出身。東北大学を卒業後、2006年、同県の化学職として入庁。1年目から県工業技術センターに勤務している。

 

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