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【Vの時代 ボランティアが築く未来】

(3)東京五輪 心の壁を打ち破る

東京五輪のボランティアに応募した堀川裕之さん。後ろは建設中の新国立競技場=東京都新宿区で

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◆「私も支えたい」活躍の場広がって

 アクセルは左側。ブレーキは右側。堀川裕之さん(54)=横浜市=のミニバンは、普通の車とペダルが逆に付いている。「左足で操作できるように改造したんです。全然問題ないですよ」

 六年半前、交通事故に遭い、後遺症で右半身が動かない。車いす生活にも慣れ、運転の適性検査にもパスした。

 この日、自らハンドルを握ってやってきたのは、東京都新宿区の新国立競技場の建設現場。ほぼ出来上がったスタンドは、息をのむほどの威容だ。

 「やっぱり、ここで活動してみたい」。二〇二〇年五輪・パラリンピックのボランティアに応募している。志望は会場案内。採用されるかどうか、二月からの面接を心待ちにする。

「一生に一度の経験をしたい」と話す松村めぐみさん=東京都文京区で

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 事故前は建設会社に勤めていたが、今は無職だ。「再就職したいけど、健常者と一緒に働けるか不安。自信を持ちたい」とボランティアに手を挙げた。

 街に出歩くようになって感じるのは道路の段差や坂道、エレベーターの順番待ち…。通りすがりの人が気を使ってくれることは少なく、自分から頼むのは躊躇(ちゅうちょ)がある。「健常者に引け目がある。心の壁を打ち破りたいんです」

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 「一日八時間、十日以上」という厳しい条件に「やりがい搾取」との批判が起きた東京大会のボランティア。言葉が広まったきっかけは、一六年のテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」だ。

 新垣結衣さん演じる新妻は、家事などを例に「善意につけこんで労働力をただで使おうとする。このようなやりがい搾取を見過ごしてはいけません」と声を上げる。

 〇八年に発行した著書で「やりがい搾取」という言葉の名付け親になった東京大の本田由紀教授(教育社会学)は「五輪ボランティアも『やりたい、と言ったのはおまえだろ』と、組織委にとことん使われないか」と懸念する。

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 障害者差別解消法が一六年に施行された。しかし昨年、国や地方自治体で障害者の雇用者数の水増しが明らかに。法定雇用率を満たすための「数合わせ」だった。

 「これじゃ、世の中変わってないじゃない」。松村めぐみさん(21)=東京都文京区=は、障害者の社会進出がないがしろにされていたと憤る。生まれつき左目が見えず、右目がかすかに見える程度だ。

 筑波大理療科教員養成施設で学び、盲学校の教員資格を目指している。「いろんな職場に興味もあるけど…」。将来の選択肢は少ないと感じる。

 一二年ロンドン大会のボランティアの4%が障害者−。こんな数字が英国の大学の調査にある。松村さんも「人を支援する側に回ってみたい。アスリートや外国の人と接したい」と、来年のボランティアに応募した。

 白杖(はくじょう)を持ち、一人でマクドナルドに入れる。音や雰囲気を楽しむため、映画館も訪れる。社会のバリアーが本当になくなれば、私の可能性はもっと広がるに違いない。

 二〇年夏、みんなに知ってほしい。「ちょっとした補助があれば、私たちだっていろんなことができるんです」

 

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