「岡本! 岡本!」。四回裏、選手交代で足を引きずりながら二塁の守備につくと、観客から声援が響いた。応援してくれる人がいることに、「感謝の気持ちでいっぱいだった」。
中学まで何かをやり遂げた経験はなかった。「高校三年間、やり通す」と決心して始めた野球。一年の時は部員不足、今年五月には右アキレスけん断裂と、次々に苦難に見舞われた。そのたびに「ここでやめたら、負け癖がつく」と自分を叱咤(しった)してきた。
アキレスけんは全治半年。無理して出場すれば再び断裂の危険もあるが、黒滝敏明監督は「動けなければ、外野を減らして二塁手を2人にすればいい」と提案。「岡本シフト」を敷く覚悟での途中出場を決めた。
三回までに5失点。チームが落ち込んでいた中で迎えた出番だった。「練習成果を出し切ろう」と声を出し、守備位置で軽快な動きを見せると、メンバーに活気が戻った。だが、反撃にはつながらず、五回コールド負け。「まだ終わりたくない」と涙を流すと、OBや保護者が「よくやった」と抱擁してくれた。
一つのことをやり通した主将は、納得した表情でこういった。「あきらめなければ、普通じゃ得られないきずなが手に入ることが分かった」 (志村彰太)
この記事を印刷する