10代からの社会保障

<5つの現場>(4)介護 「ついのすみか」見えず

2016年6月27日

水道検針員の石飛三男さん(左)らと談笑する小沢キミヨさん(中)=島根県雲南市で

写真

 「二〇二五年以降、東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)で、高齢者が介護施設を奪い合う」−。昨年六月、民間の有識者会議「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)の提言が波紋を広げた。

 二五年には現在六十代の団塊世代が、大量に七十五歳以上になる。東京圏では十年で百七十五万人増え、五百七十二万人になるという。提言では「高齢者の地方移住の促進」を掲げ、医療や介護の受け入れ能力から全国四十一地域を候補地に挙げた。

 ついのすみかに地方を選ぶ高齢者は既にいる。同会議が有力な候補地に挙げた大分県別府市。小松礼子さん(84)は五月、四十五年暮らした東京・月島から同市の有料老人ホームに移り住んだ。温泉を引いた大浴場から、別府湾を一望。食事は専属の調理師が腕をふるう。「自然豊かな別府を最後のすみかに」と考えている。

 入所者約七十人のうち、四割以上は県外から。月額利用料は大都市圏より割安だが、一時金ゼロのケースで二十万円前後。三食付きだと月五万円ほど加わる。「基本的には裕福な層が、自宅を売って入所している」と施設長は明かす。

 利用料の安い特別養護老人ホームが入所待ちなのは全国的傾向で、別府市も例外でない。設備の整った有料老人ホームに入るにはお金がかかる。そもそも長年住んだ地を離れるのは誰もができることではない。

 地域のつながりに活路を求める動きもある。島根県東部の雲南市・鍋山地区では退職した六十代が一人暮らしの高齢者を見守る。

 〇四年に六町村が合併してできた雲南市は、人口約四万人。六十五歳以上の割合は約35%で、過疎地域に指定されている。合併に伴う人員削減で、きめ細かな行政サービスが難しくなる中、自治会とは別に、住民全員が加入する三十の地域自主組織が結成された。

 鍋山地区では、水道メーターの検針の仕事を市から請け負った。毎月の検針の際、高齢者宅で「まめなかねー(元気ですかー)」と声を掛ける。年二回ほど保健師も同行する。水道検針員の石飛三男さん(60)と畑仕事の話をしていた小沢キミヨさん(82)は「顔見知りなので、安心して話せる」と顔をほころばせた。

 市の自主組織の仕事はさまざまで、預かり保育や、「買い物難民」となった高齢者向けに食品店を運営する地区もある。

 同市地域振興課の板持周治主査は「お年寄りが地域で見守られ、健康であるほど、介護サービスに対する自治体の財政負担が抑えられる」と話す。

 国は二五年までに、住み慣れた地域で医療や介護を受けられる「地域包括ケアシステム」の構築を目指している。ただ地域のつながりの薄い都市部で「支え合い」が成り立つかなど困難は待ち受ける。

 地方に移住するのか、それとも都会に地方の知恵を取り入れる方法を模索するのか。介護難民があふれる暗い未来もありうる都市住民は、一票に厳しい見極めが必要となる。 (北川成史)

写真

主な政党の公約

新聞購読のご案内