全国

18歳選挙権「先進国」スウェーデンは 政治意識 学校で地域で

2016年6月17日

授業で各政党の政策などについて学ぶ生徒たち=ストックホルム・ダンドリュード高校で

写真

 国政選挙での若者の投票率が80%を超える国がある。欧米でも「主権者教育先進国」と呼ばれる、北欧のスウェーデン。国や地方自治体などが長年にわたり、若者の政治参加を強力に推し進めてきた成果だ。参院選での「十八歳選挙権」導入を控え、「若者と政治」の距離を近づける努力を怠ってきた日本社会が学ぶべき点は多い。学校現場や政府、政党などの具体的な取り組みを現地から報告する。

 国会に議席を持つ政党の青年部や議員が、高校を中心に全国の学校現場を訪ねる活動が活発だ。生徒たちと意見交換をしたり、青年部に勧誘したりする。政党側は自らの主張を若い世代にアピールでき、学校側も生徒たちが「生きた政治」に触れられる絶好の機会ととらえる。一部の政党に偏向する危険性はあっても、生徒たちが政治意識を高めるメリットの方が大きいと考えているようだ。

 ストックホルム郊外にあるダンドリュード高校には年に数回、各政党の青年部が訪問する。政党側から求める場合もあれば、学校が依頼するときもある。訪れる党員は十代後半〜二十代で生徒たちとほぼ同世代。食堂で談笑するなど、ざっくばらんな雰囲気で話し合うことが多い。生徒の参加は自由だが、全校生徒約千四百人の八割以上が顔を出すという。

若いころから政治に触れる重要性を強調する穏健党のヨーテボリさん

写真

◆議員が生徒訪ね意見交換

 五月十九日には、政権与党の社会民主労働党、中道右派の穏健党など四党の青年部が同校に足を運んだ。その際、一年生のアントニア・セールステッドさん(16)は食堂で穏健党から入党を誘われたという。政党関係者に会ったのは初めてだったが、ラフな服装で穏やかな語り口に「悪い印象はなかった」と話す。「各党がどんな政党かは授業で学んで知っている。次の選挙まで二年あるので細かい政策を見て投票先を決めたい」と冷静だ。

 一緒にいたヨハンナ・ミューボールさん(16)は「多様な人が一緒に暮らすことは重要だと考えているので、難民をどう受け入れるかで政党を判断したい」。スウェーデンも日本と同様に選挙権は十八歳以上。自らが選挙権を得る二〇一八年の総選挙を見据えた。

 ストックホルム北西部のヤコブスベリ工業高校では今年三月、地元選出の穏健党と緑の党の国会議員らを招いた意見交換会が開かれた。参加した一年生のエリアス・エリアスさん(16)は、政治家たちの説明に興味を抱いたという。

 「僕は減税に反対だった。なぜなら、国民全員が平等な教育を受けられなくなる恐れがあるから。しかし、議員たちは『減税すれば懐が温かくなり消費も増え、経済が活性化するので若い人たちが職を得る機会も増える』と主張し、なるほどと思った」。この日の意見交換を機に、エリアスさんは政治家を志すことを決めた。

 政党青年部による学校訪問は約四十年前から続けられており、政党内には、若者の政治活動を重要視する人が多い。

「生の政治に触れることが大切」と話す高校教諭のステルネルさん

写真

 穏健党青年部理事のグスタフ・ヨーテボリさん(22)もその一人。十二歳のとき、当時の党首の演説を聴いて入党した。「政治家と会っていると、新聞に載っていない生の情報が聞ける」とヨーテボリさん。入党から数年後、穏健党は、一定の条件のもとで盗聴を認める法案に賛成し、支持率を下げたことがあった。しかし議員の一人から「盗聴を規制する法律が何もなかったことの方が問題だ」と説明され、法案の必要性を実感。「政治活動に実際に触れることで考える機会が増える。自分には貴重な体験だった」と話す。

 一方、学校側は「教育の政治的中立性」をどう保っているのか。例えばダンドリュード高校の学区は保守支持層が強いことを反映し、学校を訪れる政党は、国会に議席を持つ八党の中でも保守寄りの穏健党が必然的に多くなる。しかし、同校の社会科教諭フレデリック・ステルネルさん(35)は「私が心掛けているのは、自分の考えを生徒に押しつけないこと」と気にしていない。「一部の政党に偏る危険は確かにあるが、生きた政治に触れた方が学ぶことは多い。生徒は自分で判断できる力を持っている」と強調した。 (ストックホルムで、岩佐和也、写真も)

写真

◆若者の投票率80%前後

 スウェーデンの国政選挙では、若者世代(十八〜二十九歳)の投票率が毎回80%前後に達しており、日本の若者の投票率を大きく上回っている。

 二〇一四年の選挙で比較すると、同年十二月に実施された衆院選の二十代の投票率は32・6%だったが、スウェーデンの国政選挙は50ポイント近く高い81・3%だった。全年代で比べても30ポイント超の開きがある。

 衆院選の若者の投票率は、一九九三年の第四十回以降、八回連続で50%を下回っており、ここ二回は30%台に低迷している。

◆学校 予算示し児童が選択

 学校では、児童・生徒が運営にかかわる「学校民主主義」の理念が根付く。例えば校庭に遊具を設置する場合、実際に使う子どもたちに予算を示し、どんな遊具が良いかを聞いて決める、といった具合だ。

 主権者教育に関する専門科目はないが、授業ではディベート(討論)が多く、政治家を招いて政策を聞くことも。生徒の代表者は学校運営に加わり、各学校の生徒会を束ねる全国組織は、若者政策について政府と交渉する。静岡県立大の津富宏教授は「社会をつくる基礎概念として民主主義が位置付けられ、子どもたちは日々の体験を通じ『自分で考え、議論して物事を決める』という主権者意識を身に付ける」と語る。

 4年に1度の国政選挙時には、多くの学校で、日本の中学生、高校生にあたる生徒を対象に模擬投票が行われる。実際の政党を書き込んで投票を体験する仕組みで、結果も公表される。

 選挙権のない若者が投票方法を覚える取り組みだが、津富教授は別の狙いも示す。「模擬投票は、投票できない若者の意思表示の機会でもある。影響力があり、近く有権者になる世代なので、政治家も結果を無視できない」という。

◆地方自治体 街づくりに意見反映

 地方分権が進んでおり、各地方とも自治体ごとに独自の若者政策を展開する。自治体運営や政党運営など形態はさまざまだが、全国の自治体の5割ほどには「若者会」と呼ばれる組織が置かれ、若者側の意見集約などを受け持つ。

 自治体では、中心市街地の開発計画案に対する要望を募ったり、公共施設のデザインに関して意見を聞いたりして、若者の視点を街づくりに反映させている。若者を雇って、街の見回りや高齢者に携帯電話の使い方を教える活動に従事してもらう場合もある。

 静岡県立大の津富宏教授は「行政の理念の根本には住民参加があり、選挙権のない若者にも意思表示のルートをつくろうとしている」。若者の街づくり団体に資金援助する自治体も多く、「若者の声が通りやすい街は『住みやすい』と評価を受けるし、将来を見すえた先行投資にもなる。人口流出を防ぐため、都市間で若者政策を競っている面がある」と解説する。

◆政府 若者担当大臣を設置

 若者の政治、社会参画を進める政府が「ドイツや英国とは違う」と強調する若者政策は、若者を弱者ではなく「社会の良質な資源」ととらえ、二つの目標を掲げる。

 一つは「若者は、政治的影響力に実質的に関わること」。もう一つは「若者は、幸福に実質的に関わること」だ。

 1960〜70年代、少子高齢化をきっかけに若者支援への議論を本格化させた。静岡県立大を卒業後、現在はストックホルム大修士課程で若者政策を学ぶ両角達平さん(27)は「高齢者の人口が増えると、若者は政策の対象から外れがちになる。社会から若者が排除されるのを防いで、その声を逆に政治に反映させようとした」と解説する。

 政府は86年、若者担当大臣を設置。94年には青年事業庁(現若者市民社会庁)を設け、地方自治体の若者政策を点検する役割を担っている。

 若者市民社会庁のもう一つの大きな役割は、若者団体への資金援助だ。構成員の6割以上が「16歳から25歳」の団体に対して運営費などを補助し、政治や街づくりの活動を支える。両角さんによると、2014年には、生徒会や各政党の青年組織を含む全国の106団体に約30億円が支出されたという。

写真

◆鈴木賢志・明治大教授 若い価値観に重き

 学校の中にあるカフェや遊び場が閉鎖されたら、どうしますか?

 スウェーデンの小学生が使う教科書にある問題です。答えは「地方の新聞に投書を」「責任者の政治家に会いに行きなさい」「デモをしなさい」など。これは、個人の権利を教えています。法律も絶対ではないと伝えるから、子どもには、選挙を通じて変えられるという意識が根付くのです。

 国政選挙での若者の投票率は80%前後で、日本と比べると極めて高い。政治への関心は日本の若者の方が高いのに、です。スウェーデンの若者は、政治に影響を与えられると信じているから選挙に行く。一方、日本は、何も変えられないとの意識が強い。これが、投票率の差の原因です。

 スウェーデンでは、親も子どもの選択を尊重します。校則は生徒がつくり、国や地方の政治家が学校に来て政策を説明する。こんな日々の生活で主権者意識が身に付くのです。国も、若者を弱くて守る存在とはみなさず、未熟だが先入観がないので優れたアイデアを出す可能性があると考えています。若者政策では、彼らの価値観を大切にしています。

 日本ではかつての学生運動の過激化で、若者が政治から離れた。それに、受験勉強では主権者意識を学ぶことはできない。若者と政治をより近づけるために、選挙に出馬できる被選挙権年齢も十八歳に下げたり、地元の政治家を学校に呼んだりすることが必要ではないでしょうか。

 七月の参院選では、誰に入れるかの判断は難しくても、若者には票を投じてほしい。十代や二十代の投票率を上げることで、「若者も政治を見ているんだぞ」と政治家にアピールしてほしい。 (聞き手、名古屋社会部・藤沢有哉)

写真

 <スウェーデン王国> 北欧のスカンジナビア半島に位置し、日本の1.2倍の45万平方キロの国土に約983万人(2015年11月時点)が暮らす。首都はストックホルム。立憲君主制で、国王はカール16世グスタフ。ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベル(1833〜96年)の遺産をもとにした基金でノーベル賞が創設され、毎年12月にストックホルムなどで授与式がある。国会は一院制で349議席。選挙は得票に応じて各政党に議席を配分する比例代表制で、国会議員の任期は4年。18歳以上の男女が選挙権を持つ。

主な政党の公約

新聞購読のご案内